第5章 契約
第75話 夜の森
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夢の世界に意識を半分残して来ているかのような様子で、かなり茫洋とした雰囲気でタバサと俺の事を見つめていたのですから。
俺の言葉に反応し、何か答えを返そうとして少し咳き込む少女。その少女に対して、ペットボトル入りの飲料水を自らが飲んで見せた後に差し出すタバサ。
その飲料水を受け取り、少し不思議な物を見つめる視線で見つめた後に、しかし、ゆっくりと一口、二口と飲み込む翼人の少女。
そして、
(ありがとう御座います)
そう言いながら、少女はペットボトルをタバサに返す。
優しい声。ただ、何処かで聞いた事が有るような……。何と言うか、記憶の奥深くに引っ掛かりが有るような気がする声なのですが……。
こちらの世界に来てから何度目かの奇妙な既視感を覚えながらも、それでも思考の海に沈む事もなく、その少女を見つめ続ける俺。
その俺を、こちらも少し怪訝そうな雰囲気の瞳で見つめ返す翼人の少女。
彼女の視線と俺の視線が、ちょうど俺と彼女の中心辺りで結ぶ。その時、矢張り強く成る奇妙な既視感。
黒い髪の毛。黒い瞳。肌の色は……西欧人の白とは違う、どちらかと言うと東洋人の色の白い女性を思わせる白。
妖精女王ティターニアの容姿にも同じ事が言えるのですが、矢張り西洋人が主に暮らして居る場所で、東洋人風の面差しや雰囲気を持つ相手に出会えると、それだけで故郷。未だ帰る方法の目処さえ立っていない日本を思い出して、望郷の念に囚われて仕舞うと言う事なのかも知れません。
(それで、私は何故、こんなトコロで眠って居たのでしょうか)
俺の方から何のリアクションが起こされない事に不安と成ったのか、俺の方に向かって、少し意味不明の内容で問い掛けて来る翼人の少女。
いや、厳密に言うと意味不明と言う訳では有りませんが……。おそらくこれは、生命に重大な危険に晒される事に因る一時的な記憶喪失の可能性が有り、と言う事。この黒い翼人の少女の置かれた立場から考えると、これはそれほど珍しい事では有りません。
良くドラマなどで演じられる、ここは何処。私は誰、状態だと思いますね。
そんな俺と翼人の少女のやり取りを、彼女に相応しい普段通りの興味の無さそうな瞳で見つめるタバサ。ただ、ペットボトル入りの飲料水を飲んで見せてから差し出したりして居るので、彼女の表情や雰囲気が興味なげに見えると言うだけで、心の奥深くでは判らないと言う事。
この辺りも、通常運転中のタバサと言う感じですか。
そんな、こちらの世界にやって来てから無表情な少女の心を読む技術ばかりが上手く成って行く俺に対して、視線を移すタバサ。
そして……。
【わたしには彼女が何と言って居るのか判らない】
口調としては普段通りの抑揚の少ない口調で、但し、かなり異常
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