暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第5章 契約
第75話 夜の森
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たー!



 そして、その眩暈に似た感覚を覚えた瞬間、まるで何かの境界線を越えたかのような強い口調で、それまで不気味な風の音にしか聞こえなかったその不気味な音が、とある存在を讃える呪文へと変わって居た事に初めて気付く。
 そう、気味が悪いまでに滑らかな響き。聞く者を夢幻の彼方へと誘う旋律。しかし、それでも尚、此の世ならざる歪みを内包したその歌声。

 これはヤバい!

 異世界の歌。いや、邪神を讃える呪文に誘われるように走り出す俺。
 大木の根を躱し、身体の彼方此方に引っ掛かる小枝が折れるのを無視し、その歌が、彼の邪神を呼び寄せようとする呪文なのか、それとも、単なる彼の神の信奉者たちが闇のミサを行って居るだけなのかを見極める必要が有りますから。

 そう。いくら俺でも吠え猛る風の邪神。名状し難き者ハスターが顕現されて、それを異世界に送り返す事を簡単に為せるとは思えません。
 少なくとも、この一命を以て追い返す、ぐらいの覚悟は必要な事態のはずですから。



 最後は加速すら使用して一気に森を走り抜け辿り着いた先。其処はむせ返るような異様な臭気と、赤とも黒とも付かない色。
 そして、その状況にそぐわない耳をふさぎたく成るほどに喧しい静寂に支配された場所で有った。

 そう。先ほどまでは確かに聞こえていた異世界の存在を賛美する歌声は、何時の間にか終了していたのだ。

 おそらく翼人たちによって切り開かれた森の一角であった場所。まるく広場状に切り開かれた直径三十メートル程度の広場。その周囲には大小様々な形の木造の小屋が存在している。
 そんな広場に……。いや、違う。このコミュニティ内の彼方此方に黒、白、茶色の羽根が舞い散り、そして、それに付随するかのように、手が。脚が。首が。人間を構成するすべての部品が散乱している。

 太歳星君や違法カジノ事件で牛角の邪神が顕われた際に匹敵するほどの赤とそれ以外の毒々しいまでの色彩と臭気に、流石の俺も胃がうねるような吐き気を覚え、思わず視線をそむけそうに成る。
 そう。今宵の翼人のコミュニティは本来、人なる者が踏み込んでは成らない忌むべき場所。俺とタバサは足を踏み入れてはいけない場所に足を踏み入れて仕舞って居たのだ。

 その場所。昨日の陽の有る内は間違いなく翼有る人たちが暮らして居た平和な村に、蒼き偽りの女神が支配するこの時間に立ち込めているのは生者とは無縁の空気。怨恨と邪神を讃える歌が謳われる異常な空気は、物理的なまでの威圧感となって俺と、更にタバサに対して迫って来る。

 そうして、

「なんだ、またお前らか」


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