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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第33話 「顔の無い怪物」
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する失望は、どん底に落ちるかもしれん」

 宰相閣下のお身は是が非でも守らねばならん。
 そうでなければ、帝国そのものが崩壊するやもしれんからな。
 ロイエンタールは俺にも、はっきりと分かっていない危機感を自覚しているのかもしれん。
 ただ宰相閣下を守らねばらん事だけは理解できる。

 ■自由惑星同盟 統帥作戦本部 アレックス・キャゼルヌ■

「おいヤン。聞いたか」

 ヤンの奴が顔を見せたとき、思わず問いかけてしまった。
 後ろにいるアッテンボローが目を丸くしている。

「なんですか先輩、いきなり」
「いや、すまん。イゼルローンで行われる捕虜交換に、あの皇太子が来るそうだ」
「そりゃすごい」

 アッテンボローが興味津々といった感じで、紙コップに入ったコーヒーを差し出してきた。

「噂の皇太子を直接見る、いい機会ですね」
「ああ、政治家連中が我先にという感じで、捕虜交換の調印式に出たがっているぞ」
「会ってどうするつもりなんでしょうね」
「さあ〜」

 実際のところ、会ってどうなるものでもあるまい。
 和平交渉をしようにも、あの皇太子、それほど甘くはないだろう。

「ただ、どういう人物なのか、俺も興味がある」
「ルドルフのようなタイプでしょうか?」
「アッテンボロー、それはないと思うよ」
「そうですか?」
「そうだな、そんなに分かりやすいタイプではないだろう」
「二面性ですか?」
「そうだね。“皇太子の二面性”と呼ばれるものだと思う」

 皇太子の二面性。最近になってハイネセンで、よく話題になる言葉だ。
 冷静さと強引さ。寛容と苛烈さ。我慢強さと行動の早さ。
 どれもこれも相反するものだが、そのどれもが皇太子の中で両立している。
 だから読みにくい。
 次に何をしようとしているのかは、分かってもどれから手を打つのかが読めない。

「厄介な相手だ」

 俺がそう言うと、ヤンがポツリと漏らした。

「皇太子とは心理戦をするべきではないですね。遣り合うのであれば、正面から物理的にぶつかる。これしかないでしょう」
「決戦主義か?」
「他の人物が相手なら、心理戦は有効です。ですが皇太子には、無意味です。戦略レベルで圧倒してきますよ。手も足もでないぐらいまで追い込んでくる。それも我々がまさかと思うレベルです。ここまでしないだろう。ここまでする訳ない。そう思うぐらいまで追い込んできますよ」
「勝敗は戦場の外で決まるか」
「武力行使は、その上での事。分かりやすい形で勝敗を認めさせる手段でしかない」
「皇太子は、そういうタイプですか……」
「少なくとも戦場に引っ張り出す事はできないだろうね」

 ヤンの顔色が少し悪い。
 相手は本物の専制君主だ。
 軍人レベルで勝
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