第33話 「顔の無い怪物」
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ターで確認作業を行っていたケスラーのみであったが。
雪と氷を踏みしめるMSの足。
ぺたんとまるでクッキーの型のように、抜かれているようにも見える。
「大きいな」
どこかでぼそっと呟かれる声。
MSを初めて見た者は、みなそう言う。
照明に照らされたMSが浮かび上がる。元はダークグリーンだ。冬季迷彩用として、白っぽい灰色に塗り替えられている。見慣れない色彩にさすがのケスラーも違和感を感じていた。
「――女だ」
帝国軍の軍服を纏った女性兵士がザ○から降り立つと、基地の軍人達が一様に驚いた声を漏らす。
しかも階級は中尉。基地にいる兵士達の大半よりも階級が上である。
彼女らは劣悪遺伝子排除法が廃法になった際、皇太子殿下の後宮に集められた女性達だった。
後宮にやってきてからというもの、軍籍を与えられ、MS開発局に所属している。
そしてテストパイロットに従事してきたのだ。
それは為すこともなく、ただただ後宮に閉じ込められているよりも、よほどマシだろうとの宰相閣下のお考えによる。
「皇太子殿下の寵姫か」
ヘルダー大佐の言葉に兵士達が身を硬くする。
基地にいる誰もが、銀河帝国皇太子にして、帝国宰相閣下に睨まれたくはないようだ。
一瞬にして誰もが無言になった。
その中で吹雪の音のみが耳に聞こえてくる。
「ウルリッヒ・ケスラー中佐。遠路遥々ご苦労だった」
「ヘルダー大佐にはご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「うむ。オーディンから連絡が来ている。MSの実験をするそうだが、できることがあるなら何でも言ってくれたまえ」
ヘルダー大佐は四〇代前半の、どことなく陰気で不機嫌な印象を与える男だった。眉が両端へむかうにしたがって広がり、唇の色が悪い。目の光にも活力が欠けていた。
しかもその目の奥に、宰相閣下に対する媚のようなものも含まれていた。こんな基地に閉じ込められているのだ。嫌気も差そうというものか……。
貴族達の物言いよりも、彼らの態度の方がよほど帝国の現状を物語っている。
戦争に厭いているのだ。
口にしない不満。終わりの見えない戦争。百五十年近くに渡る戦争に、誰もが嫌気が差している。現状を見て来いと仰られたのがよく分かる。
百聞は一見に如かず。とはこの事だ。
■宇宙艦隊総司令部 ウォルフガング・ミッターマイヤー■
「卿ら両名にイゼルローンへ向かってもらう事になった」
ミュッケンベルガー元帥から直々の命令が下った。
呼ばれたのは俺とロイエンタールの二人だ。
何事かと思えば、捕虜交換の際の、イゼルローン要塞周辺の警戒と護衛が任務らしい。
しかも捕虜交換の際には、宰相閣下が直々にイゼルローンに向かい、調印式に出席さ
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