第二章 風のアルビオン
第三話 襲撃と空賊
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「ああ、貴族派の連中が、わざわざ空賊の真似事をする必要はないしな」
士郎の話に頷いているウェールズに、ワルドが近づいていき、優雅に頭を下げて言った。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
「フム、姫殿下とな。きみは?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
それからワルドは、ルイズと士郎をウェールズに紹介した。
「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔でございます。殿下」
「なるほど! 君のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに! して、その密書とやらは?」
ルイズが慌てて胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出すと、恭しくウェールズに近づいたが、途中で立ち止まった。そして、ちょっと躊躇うように口を開いた。
「あ、あの……」
「なんだね?」
「その、失礼ですが、本当に皇太子さま?」
ウェールズは笑った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」
ウェールズは、ルイズの指に光る、水のルビーに近づけた。二つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまく。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」
ルイズは頷いた。
「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
「大変、失礼をいたしました」
ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。
ウェールズは、愛しそうにその手紙を見つめると、花王に接吻した、それから、慎重に封を開き、中の便箋を取り出し、読み始めた。
真剣な顔で、手紙を読んでいたが、そのうちに顔を上げた。
「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は……」
ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。再び、ウェールズは手紙に視線を落とす。
最後の一行まで読むと、微笑んだ。
「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みだ。そのようにしよう」
ルイズの顔が喜色に輝く。
「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね」
ウェールズはルイズ達に向けにっこりと微笑む。
「多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」
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