第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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相手は、これまでの幻獣やメイジ、亜人とは桁が、存在が違い過ぎる。
そう……相手は巨大なる力を持つ国。
そんな相手が選んだ、タバサを殺すための処刑人が今、旧オルレアン屋敷にいるのだろう。
ならば今の旧オルレアン屋敷は、タバサの思い出の場所でも、母親を取り返すための戦場でもなく……死地。
そんな場所に、愛する主を一人で行かせることは出来るはずがない。
シルフィードが無理にでもついていこうと心に決め、一歩踏み出そうとした瞬間―――。
「わたしの帰る場所は……もう、あなたしかいない。だから…………お願い」
ポツリと呟かれた小さな声が、その踏み出そうとした足を止めた。
シルフィードに振り向くことなく、タバサはそう言うと、屋敷に向かって歩き出す。
タバサの言葉によりまるで魔方が掛かったように固まっていたシルフィードだったが、不意に力なく首を垂らした。
シルフィードの瞳に映る、自分の愛する主の小さな背中が、滲み、歪む。
段々と小さくなっていく小さな背中から逃げるように、シルフィードは一気に空へと羽ばたいた。
シルフィードの瞳一杯に溜まっていた涙が、粒となって空を舞う。
きらきらと陽光を反射しながら落ちていく涙。
屋敷の玄関の前で立ち止まったタバサは、一瞬震えた口元を噛み締めると、扉に向かって手を伸ばし―――。
『―――ん? 改めて聞かれると……まあ、そうだな』
―――何故か、
『あ〜……ん。ま、あるにはあるが』
タバサは唐突に彼のことを思い出した。
『ふむ。ならお前は何だと思うタバサ?』
屋敷の玄関には、鍵は掛かってはいなかった。
扉は軋みを立てながらもゆっくりと開いていく。扉が完全に開ききると、中から朝の冷えた空気が流れてきた。開ききった扉の前で立ったタバサは、ぐるりと見慣れた屋敷の中を見渡す。
人の気配は……ない。
タバサが帰ると、何時も飛ぶように迎えに来る執事のペルスランの気配も、他の使用人の気配もなにも感じない。
節くれだった杖を握る右手を握り直すと、タバサはゆっくりと屋敷の中に足を踏み入れる。
その姿には、緊張も何も見えない。何時のものように、何の感情も見えない顔でゆっくりとした足取りで歩いている。
ただ一つ。
違いがあるとすれば、その身に纏う雰囲気。
タバサが通り過ぎた道が凍りつくかのような、それほどまでに冷め切った気配。タバサが一歩足を進めるたびに、空気が軋みを上げている。
タバサが向かう先は、母親の居室。そこに至る長い廊下を、タバサは歩く。
ゆったりとした様子で歩いていたタバサだが、唐突に右手に握る杖を振るった。
瞬間。
タバサを中心に、前と後ろにある、廊下の左右に並ん
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