第百四十一話 姉川の合戦その十四
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「織田信長殿とな」
「そういえば殿は」
古くから宗滴に仕えている家臣が言った。
「以前より右大臣殿を買っておられましたな」
「うむ、そうじゃ」
その通りだとだ、宗滴も答える。
「とはいってもわしはわかったことをそのまま言っておるだけじゃったがな」
「それだけですか」
「うむ、それだけじゃ」
宗滴にとってはまさにそれだけだった、彼だからこそ信長の資質をまだ吉法師だった頃から見抜けたのだ。
「家の誰も気付かなかったがな」
「そして今もですか」
「運だけと言っておる方が多いですな」
「殿もな」
宗滴は苦い顔で義景のことも言った、彼が殿と呼べるのは朝倉家の主である義景だけなのだ。
「今もな」
「ですな、義景様には今も尚です」
「右大臣殿を運がよいだけの方だと思われています」
「確かに運もかなりの方じゃ」
だからこそ今に至る、しかしなのだった。
「だがその運もまた資質に入るまでにな」
「右大臣殿はそれだけの方ですな」
「まさに」
「天下は運だけで手に入れられぬ」
そこには多くのものが必要だというのだ、武や政、文だけでもない。
「人を動かし惹きつけて離さぬものがな」
「右大臣殿は全て備えておられますか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「うつけ殿ではないわ。天下の出来物じゃ」
「そしてその出来物の方と」
「次の戦で」
「戦う」
そうするというのだ。
「そして何とかな」
「朝倉の家をですか」
「絶対に」
「うむ、守るぞ」
こう言うのだった、そのうえで。
彼は立った、そしてだった。
周りの者にだ、こう言った。
「では今よりな」
「服を着て、ですな」
「そして具足と陣羽織も」
「そうじゃ、出陣じゃ」
そうしたものを着てだというのだ、宗滴は覚悟を決めて出陣した。老雄は今天下を握らんとする蛟龍に向かおうとしていた。
第百四十一話 完
2013・6・16
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