鳳苗演義
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。その表情はこれ以上事情を知られるのを恐れての事か。
はっきり言って先ほどの追及はその殆どにあまり意味がない。このやり取りで太公望は「彼女が平均的な家庭にいるか否か」というのを確かめたかったのだ。例えば天涯孤独、若しくは記憶喪失の類ならば女禍との関連性を探るのは難しい。一般家庭で育ったのなら何らかの形で現世に残った女禍の魂魄が少女に乗り移った可能性が高くなる。どちらにしろ得られる情報はある。太公望の見立てでは彼女は恐らく前者であろう。
「とまぁ、探偵ごっこはこの辺で区切っておくか。少々いじわるが過ぎたようじゃ。ぽんずも主人を虐められたと思って怒り心頭のようだ」
「え?」
その言葉にはっと太公望の方を見た。そこには・・・太公望の頭をガジガジとかじるぽんずの姿。しっぽは真っ直ぐぴんと突っ立って毛も逆立っているのを見るに怒っているのは明白だ。あの大人しいぽんずが自分の動揺を感じ取って伏羲に・・・?と苗は驚きを隠せなかった。それと同時に少しだけ涙が出る。
――この世界でたった一匹の私の飼い猫は、こんな情けない主人のために身体を張っているのか。ぽんずから感じられた自分への確かな思いを実感した苗はぽんずに手を伸ばした。
「ぽんず」
「ぅうぅぅー・・・」
「ぽんず。離してあげて?私、もう大丈夫だから」
「・・・なーお」
渋々と言った態度で太公望を離したぽんずは二人の間に割って入る様にズン、と座った。これ以上主人を虐めたら承知しないと言わんばかりの態度に苗も太公望も笑った。
(愛されておるのう)
動物や妖怪は本能的に守るべき生物と避けるべき生物を判断する。少なくとも今目の前にいる彼女は危険な存在ではなさそうだ、と太公望は結論付けた。
自分でも何故あれほど動揺したのか分からない。ただ、伏羲に何もかも見透かされているような気分になって、顔に出すまいとしていた動揺が息から出てしまった。
きっとその瞳が私の隠し事も虚栄も全てを見透かしたら、私には何も残らない。私と言う人間には驚くほどに――何もないから。あるのは名前と、命と、体と、ほんの小さな繋がりと、あとはぽんずだけだ。他には本当に何もないのだ。「お前には何もない」と口に出されれば、この小さく脆い心は本当に何もなくなってしまう。そう考えたからなのかもしれない。
伏羲が怖い。自分を空っぽにされそうで怖い。なのに、彼は何処までも気さくで明るかった。話せば話すほど、彼がずっと自分の隣にいたかのような錯覚を覚えそうになる。
一緒にいるのが怖いのに、離れようとすると体が嫌がる。まるで夏の虫が炎の光に引き寄せられるように私は伏羲と共に歩いた。どうせ伏羲は余所者、時間が来れば嫌でも別れることになる。そう自分に言い聞かせた。
本当は一緒にいてほしいんだろう、と心
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