鳳苗演義
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たい焼き屋のおじさんにも言われたのだが、どことなく自分と彼の顔が似ているのだ髪の色や質もそっくり。まるで本当に兄妹であるような錯覚さえ覚えた。だから、ちょっとイタズラしてしまった。
正直やって後悔した。その時はノリで言ってしまったが、普通年下の子供にそんな悪戯をされていい気のする人はそういない。たかだかちょっと自分に似てるだけの赤の他人に金をたかる。初対面の印象は最悪だろう。痛烈な自己嫌悪に襲われた。しかし同時にこの人なら許してくれるんじゃないかと言う淡い期待も抱いていた。
伏羲はぶつくさ文句を言いながらも許してくれた。もともと心根の優しい人なんだろうな、と思った。彼の隣は不思議と心地よい。まるで魂が惹かれているような錯覚を覚えるほどに。近くにいるとどんどん素の自分が姿を現し、いつの間にか彼に接する態度は完全に砕けたものになっていた。
同時に、少し不安に思うこともある。――伏羲はこちらを見るとき、私に”誰か”を重ねている。家族だろうか?親戚だろうか?友達かご近所か、それとももっと違う誰かか。それが嫌だった。
私を見てほしい。私に重なる誰かではなく私を、訳も分からない状況で怯えているこの私を。でも、その誰かが私と重ならなかったら彼は私から興味を失うのだろうか。そうなれば彼との繋がりは立たれてしまうかもしれない。そう思うと本心をさらけ出す気分にはなれなかった。相反する二つの感情を、私は心の奥深くに無理やり押し込んだ。
少しでも一緒に居たい。この見知らぬ少年と歩き回って、孤独な自分の心から目を背け続けたい。街探索などと苦しい理由をつけてまで歩き回ってあちこちで買い食いをするその時間はまるで彼が本当に兄であるかのような錯覚をもたらした。
ああ、伏羲とずっと一緒に居られたら。居られたら・・・虚栄が本当になるのに。
「のう、苗や」
「・・・ふえっ!?あ、あの・・・何?」
「何をどもっているのだ?まあ良い、少し訊きたいことがある」
「あ、うん。いいよ?」
いけない、考え事をしていたせいで反応が遅れてしまった。こんなことでは伏羲を呆れさせてしまう。しっかり会話しなければ・・・
〜
「お主に聞きたいことなのだが・・・まずはお主、その服装は他人からの借り物であろう」
「・・・・・・うん、正解。どうしてそう思ったの?」
「ふむ」
やや間を置いて、苗は少し驚いた顔を見せた。太公望は苗の目の奥で不安や孤独の感情が揺れているのを何となく感じ取っていた。だからこそ、いい加減自分も彼女の事情を探ることにする。無論彼女の機嫌と照らし合わせて慎重にだが。
「その服。身体のサイズより少しばかり小さいであろう?デザインも活発なお主が選ぶにしては少々質素すぎる。ついでに靴は借り物であろう?先ほどから靴擦れを
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