鳳苗演義
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兄ちゃんはこの町に住んでるの?」
「いや、海外留学だ。なかなか良い街のようで安心だわい」
覗き込む苗に太公望は嘘半分本音半分で答える。今まで伏羲は世界のあちこちに旅行しては住みよい場所で数年過ごして、と行った事を繰り返してきた。だから女禍の一件が無事落着したら今度は此処に暫く住もうと考えていた。
その返事に苗は一瞬ほっとしたような顔を見せ、直ぐに屈託のない笑みを浮かべた。
「それじゃ町の地理を知っておかないとね!実は私もこの町に来てあんまり経ってないんだよねー。だから一緒に回らない?」
「かまわんぞ。ついでに美味しい桃を売っている店に目星をつけたいしのう!日本の桃はどんな味かのう?楽しみだわい!じゅるり・・・」
こうして苗と太公望、そしてぽんずの町めぐりが始まった。
その二人の姿を見た住民たちは口をそろえてこう言ったという。「仲睦まじげな兄妹だ」と。
「むぐむぐ・・・流石は美食の国と謳われるだけの事はあるのう・・・この杏仁豆腐は気に入ったぞ!」
「中国の杏仁豆腐は違うの?」
「あちらでは杏仁豆腐は薬膳料理・・・つまりデザートではないのだ。わしはこっちの方が甘くて好きだのう」
「お兄ちゃん本当に甘党だねぇ〜」
「ぅにゃーお」
楽しい。伏羲と一緒に歩きまわって素直にそう感じた。
この世界に来てから右も左も自分の事さえおぼろげで、ただただ一人が怖くてぽんずを抱きしめた。いつからこの子といたのかは分からない。微かにだがこの子に餌を与えていた記憶はあるのできっと飼い猫だろうと思う。とにかく、苗にあったのは自分の名前とぽんず、そして身体年齢に似合わない知識のみだった。
そして居場所もなく街をウロウロしていた時に偶然八神はやてと言う少女に会い、今は彼女の家に居候している。同類相憐れむではないが、彼女も小学生ほどの歳で独り身だったからシンパシーを感じたのだろう。一度仮面をかぶった変態さんに捕まりそうになったが一発ぶん殴ったら現れなくなった。あれは結局誰だったんだろうか。アリスコンプレックスの変態さんはとっとと捕まって欲しいものである。
閑話休題。戸籍がないから学校にも行けない。知り合いもはやてちゃんしかいない。手元には何故か持っていたいくばくかのお金とぽんずのみ。たとえ寝食を共にする人がいても、苗の孤独は埋められなかった。――今まではもっとたくさんの人といた気がする。その感覚とのギャップが一層心細さを際立たせた。だから今日耐えられなくなって街に飛び出したのだ。寂しさを誤魔化すように歌いながら。
そんな中、偶然食欲につられてやってきたたいやき屋で、伏羲と出会ったのだ。
見た目の年齢は中学生くらい。パッと見には分からないが中国の出身らしい。ホームステイか何かだろうか?
正直驚いた。
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