花の勇者と黒子の助言者
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りながら、彼女は将だけを見ていた。
やがて…将の前で彼女の歩みは止まる。
「戦争をやめてほしいッス」
「…出来ん」
優者の問いかけに、将の答えは簡潔だった。
「向うの人達は私が説得するッス」
「出来ぬと言っている!!」
流石は軍を率いる者…豪胆な物さえその怒声の前では怯み、逃げ出していただろう。
それでも勇者は退かない。
その様子に、本人達よりも周りの人間達がざわめいた。
自分達の将と、見た目華奢な少女である優者が真正面から対峙して互角に渡り合っている。
「ここで勝てねば、我が国は飢えるのだ!!」
将が提示した戦争理由に対し、勇者は身をかがめた。
何をするかと思えば、足元に咲いている真っ赤な花を一輪摘み取る。
そのまま、回りの人間が見守る中で、彼女は花弁を一枚とると口に入れた。
敵味方を問わず、皆があっけにとられる光景だ。
「食べてほしいッス」
勇者は花を将に向ける。
「俺に…わけのわからんものを食わせようと…毒か?」
「食べてほしいッス!!」
有無を言わせない気迫だった。
この状況を全ての人間が見ているのだと思いだした将は、ここで退く事による指揮の低下を考えた。
形はどうあれ、これは一騎討ちの形だ。
向こうが挑んで来ている以上、受けない訳にはいかない。
「…よかろう」
将が花弁を数枚まとめてむしりとると、無造作に口に放り込む。
勇猛さを示そうとしているのか、それとも彼の素かは分からないが…しばらく咀嚼していた彼の目がかっと見開かれる。
「おいしいッスか?」
「あ、ああ…美味い…」
将の言葉を聞いた兵士達は、自分の足もとで咲き誇る花をまじまじと見つめ…恐る恐る口に入れ…将の感想が正しいと実感したとたん、食欲の枷が外れた。
敵軍だけでなく、味方の軍でも同じ事が起こり、立っている兵士は勇者と両軍の幹部と将だけとなる。
本当なら彼らも参加したいのかもしれないが、そこは根性とプライドでとどまる。
「…何のつもりだ?」
「おなかがすいたのならいくらでも出すッス。だから戦争をやめてほしいッス」
「馬鹿な…この程度の事で腹がふくれるわけがなかろう?」
所詮は花弁だ。
空腹を満たすのにも限界がある。
「それでも、誰も戦争なんてしたくないはずッス」
「分からん奴だな…俺だって戦争がしたいわけではない」
思わず、将がその本音を漏らした。
その腰に帯びる剣を抜き、優者の頭上に掲げる。
「それでも戦わねばならん。祖国の為に…」
「苦しいのは貴方の国だけじゃないッス。二つの国共に苦しいッス」
「ならばどうする?その花で両国を救えるのか?」
「私だけじゃ無理ッス!!」
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