9部分:第九章
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ン=エルザですか」
本郷はあえてドイツ風に呼んだ。フロイラインとは英語で言う『ミス』と同じ意味である。日本語に訳すと『お嬢様』といった意味になる。
「そうです。エルザ=フォン=リンデンバウム」
彼女はそう名乗った。
「それが私の名前です」
「リンデンバウムですか」
本郷はそれを聞いて考える顔になった。見れば役もである。
「何か」
「いえ、日本でもよくある木でして」
「リンデンバウムがですか」
「はい日本では菩提樹と呼びます」
ドイツ語であえて菩提樹と呼んでみせた。これは本郷の気配りである。
「ですがドイツではそう呼ぶのですね」
「私の好きな木でもあります」
「そうなのですか」
「気付いたらいつもその木の下にいます」
ここでエルザは少し変わったことを述べてきたのである。
「気付いたら?」
「この城の近くに一つ大きなリンデンバウムがありまして」
そう二人に対して語りはじめた。
「気付いた時はいつもそこにいるのです。私は身体が弱くて」
「身体がですか」
「それでよく倒れるのです。兄の言葉では貧血のせいだそうです」
「おや?」
本郷は今のエルザの言葉でまたあることに気付いた。
「お兄さんはお医者様ですか」
「はい、そうですが」
これははじめて聞くことであった。見れば役もビールを飲む手を止めていた。そうして黙ってエルザの話を聞いていた。
「それが何か」
「いえ、はじめて御聞きしまして」
本郷はそうエルザに答えた。
「それでなのです。少し驚きました」
「そうでしたか」
「はい。驚いたのなら申し訳ありません」
「いえ、それは」
エルザはそれは気にはしていないようであった。もっともここでも表情を変えることは全くないのであるが。あくまで表情は変わらない。
「御気になさらずに」
「有り難うございます。それでですね」
「はい」
「今日は有り難うございます」
部屋に泊めてくれていることに礼を述べたのであった。
「おかげで助かりました」
「本当に」
役もエルザに対して礼を述べてきた。
「こうして御馳走までしてもらいまして。有り難うございます」
「御礼を言うべきなのは私の方です」
「貴女の方こそ?」
「はい。私は身体が弱いので」
それはさっき話した通りであった。本郷も役もエルザの白い顔を見ている。そこにはいぶかしむものがあったが彼女はそれに気付いていないようであった。
「こうしてお客様が来て下さることは何よりも嬉しいのです」
「そうだったのですか」
「はい、寂しい思いをしなくて助かります」
そうした理由からであった。
「いつもは兄が一緒にいてくれるのですが。それに使用人達も」
「そうですか」
「はい」
本郷と役はここで周りに控える三人程のその使用
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