軍務省のひだまり〜SS寄集め
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せずにここまで来てしまったことに、後悔する間もなかった。
「きゃあああああああ!!!」
「オベ様!リアルにオベ様!!!」
「閣下ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
マイクを通した黄色い声は、鼓膜をつんざくという表現でおさまるものではなかった。ガーンともキーンとも言えない”音”が頭の中をえぐるように反響して、オーベルシュタインは遠のく意識を何とか保ちながらテーブルに手をついた。無意識に取り出していた軍支給のハンカチを左手で握りしめる。
「フェルナー准将、これはどういうことだ」
一刻も早く、この騒々しい空間から逃げ出したい思いで、抑えたというより力の入らなかった声で問いただす。
「ご覧の通りカラオケですよ。いくらなんでも一般常識としてご存知でしょう?」
そんなことを聞いているのではないと言いたかったが、頭の中の残響に邪魔されて、思うように言葉が出ない。
そうこうするうちにも、調子に乗った部下が説明を始める。
「閣下、これが専用マイクとリモコンです。あのモニタに歌詞と映像が出ます。そしてこちらのフロイラインがたが、閣下を慕っているという奇特な……ちょ、ちょっと、無言で帰るのやめてもらえませんか!閣下!!」
精一杯の抵抗の証として、灰色のハンカチをテーブルへ叩きつけてから、オーベルシュタインは足早に廊下を抜けて行った。
残されたハンカチが、当人の意図とは無関係に”ご褒美”として争奪戦の的となったことは、ここで語るまでもないだろう。
(Ende)
7.部下〜ハロウィン2013
新設の士官学校を視察中、軍務尚書がはたと足を止めた。
「どうなさいました?」
随行していたヴェストファル中佐に問われ、オーベルシュタインは「いや……」と小さく首を振り視線を戻した。
軍務省へ戻る地上車の中から、しきりに窓外を眺めながら眉間に皺を寄せていたが、執務室に辿り着いた瞬間にその情のこもらぬ義眼で己のデスクを見やると、他へは聞こえぬ溜息を漏らした。時計は5時を回り、帰り支度をする省員も多いが、彼直属の優秀にして厄介な部下は未だコンピュータ端末に向かっていた。
「どうされましたか」
護衛隊長の怪訝そうな声で我に返ったオーベルシュタインは、彼を下がらせると何食わぬ顔で職務を遂行している部下を一瞥し、自らも席に着いた。
「……どうなさいました、閣下?」
しばし手を止めていると、フェルナー准将が薄い笑みを浮かべて問いかけてくる。オーベルシュタインはうんざりした顔で、悪戯好きの部下と自分のデスクに飾られた物体を交互に見やった。
「このカボチャは何だ」
明らかに食用とは思えない形状の黄色いカボチャの、中をくり抜いて目や口の彫られた人形が、オーベルシュタインのデスクの実に4分の1を占領している。
「ご覧の通り、少し変わったカボチャですよ。この殺
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