軍務省のひだまり〜SS寄集め
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ではないはずだが」
ヴァルハラは戦死者のための世界である。しかし案内人は小さくかぶりを振った。オーベルシュタインには見えていないはずだが、気配で察することができた。
「戦死だ。卿の戦場が地上であり軍務省であったというだけだ。違うか?」
オーベルシュタインは一瞬間をおいて、ふっと息を吐いた。
「卿ら前線の提督から、そのような言葉が出ようとは。どういった心変わりかな」
死の瞬間まで変わりのない冷淡さで、初代軍務尚書は氷を投げつける。
「分かっていたさ、気に食わんだけでな。俺とて、卿の職責を理解せぬ訳ではない」
彼の明晰さを考えればそういうものかと、オーベルシュタインは僅かに肯いた。
「それにだ。死んだ後まで嫌味を言うほど、俺は悪趣味ではない。ヴァルハラとはそういうところだ」
もはや返答する気力もなく、黙って続きを促す。
「生前の諍いはどうにもならん。だが、これからは卿も楽になれ」
案内人の手が伸び、オーベルシュタインも答えるように手を伸ばすと、スーッと上半身を起こした。肉体が伴っていないことは承知していた。なぜ卿が案内人なのだと問うと、ロイエンタールは苦笑しながら、生前にいがみ合っていた者が選ばれるのだと答えた。罪業への償いかと、二人は笑った。
(Ende)
6.オーベルシュタインのファン交流
不機嫌さを隠そうともしない上官を強引にそのビルへと押し込んで、フェルナーは端正な顔に笑みを浮かべた。
「凄く良い店なんです。閣下にご紹介したくて予約したんですから、せめて少しだけでも覗いて下さいよ」
部下の言葉は一見腰が低いが、このまま帰す気のないことは、出口を塞ぐように立つ態度に表れている。
いらっしゃいませ、という店員たちの声さえ忌々しく思えて、オーベルシュタインは罪のない彼らにその仏頂面を向けた。そうしながらも、自分とフェルナーの背後に控えている護衛の憲兵隊員に目をやる。常と変わらぬ顔を確認し、フェルナーに買収されている様子はないと理解する。
少なくとも、危険はないであろう。
さっさとチェックインを済ませた部下に連れられて階段を上がる。左右に並ぶ個室。扉の上部には部屋番号と思しき数字が刻まれている。
この間隔でドアがあれば、部屋の広さはたかがしれていよう。ホテルの類ではなさそうで、その用途が判然とせず、一段と眉間の皺を深くした。
と、前を行く部下が唐突に足を止める。
「なんだ」
部下の踵を蹴り上げそうになり、慌てて自分も立ち止まる。振り返った部下の悪意に満ちた笑みを見て、やはり蹴り上げておけばよかったかと思ったが、後の祭りであった。
フェルナーが217号室と書かれたドアを押し開けると、途端に女性たちのやかましい声がオーベルシュタインの耳を貫いた。
「こちらです」
危険がなければ良いかと、大した抵抗も
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