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エリクサー
6部分:第六章
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理でも最低限に収めておくのだ」
「最低限ですか」
「こちらがわからなくとも向こうがそうであるとは限らない」
 これは事実であった。こちらが見えていなくとも向こうが見えているということは非常によくあることである。それを今本郷に言うだけであるのだ。
「いいな」
「不公平な話ですね」
 その言葉を聞いた本郷の顔がシニカルな笑みになった。
「それもかなり」
「ハンデはつきものだ」
 しかし役の言葉からクールさは変わりはしない。
「別に驚くことではない」
「ですかね。まあとにかく」
「前に出る。いいな」
「はい」
 役の言葉にこくりと頷いてみせた。
「ここで背を向けても何にもなりませんからね」
「そうだ。いいな」
「はい、それじゃあ」
 そうして橋に足を一歩踏み入れた。するとここで前から青い服を着た金髪碧眼の美女が姿を現わしたのであった。
「あの」
「貴女は」
 まずは本郷がその美美女に問うた。見れば豊かなブロンドの髪をボブにしている。目は垂れ目気味であり小さく紅に染まっている唇と共にその顔を艶やかなものに見せている。青いワンピースの服に全身を包まれ赤い靴を履いているその肢体は穏やかでゆったりとしたその服からもはっきりとわかる程均整が取れたものであった。そう、まるで全てが艶やかに作られたような美女であった。
 本郷はその美女に声をかけたのであった。あえて穏やかな声で。
「先客ですか」
「先客とは」
「ですからこのお城に」
「この城は私の家ですが」
 美女はここでこう本郷に答えてきた。
「それがどうかしましたか」
「家、ですか」
「はい」
 また本郷に答えてきた。
「そうです」
「そうだったのですか。それは」
「お気付きになられなかったですか」
「すいません」
 ここは素直に謝罪してみせた。しかしそこに己の本心は入れてはいない。
「迂闊でした。ついつい」
「そうでしたか」
「すいません」
 本郷はまた同じ言葉で謝罪した。顔では謝罪は作ってはいるが心では違う。それは彼の隣にいる役も同じであった。
「いえ、いいです」
 美女は彼の謝罪を受け入れた。口ではこう言うがそれでも表情は何一つ変わりはしない。それはまるでギリシア彫刻のようであった。
「そうですか」
「はい。ところで」
 美しく艶やかだがまるで機械のように抑揚のない声を出してきた。

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