5部分:第五章
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「かつては一面が森だった」
こうまで言うのであった。
「ドイツの中に森があるのではない、森の中にドイツがあった」
「そんなにですか」
「私の中ではそうだ」
そう述べた。
「日本人とはそこが違うな」
「ですか。ところで」
話が一段落ついたところで本郷は役に声をかけてきた。
「そろそろ城に入りませんか」
「そうか」
言われてそのことをようやく思い出したようであった。
「そうだったな。この城を宿にするのだからな」
「そうですよ。その為に城を探したんですし」
「その通りだ。では中に入るか」
「はい」
役に対して頷いてみせた。
「それじゃあそういうことで」
「では中に入ったら」
役は一歩足を踏み出して言う。
「夕食にしよう」
まずは何よりもそれであった。
「何か食べないと終わりはしない」
「そうですよね、やっぱり」
本郷もその言葉を受けて微笑むのであった。
「腹が減っては戦ができぬっていいますし」
「特に君はそうだな」
本郷のいる後ろを振り向いて声をかけた。
「食べなければどうしようもないな」
「死んでしまいますよ」
楽しげに笑って役に答えた。
「それも俺の場合は自分の体重の半分は食べないと」
「土竜ではないのか、それは」
土竜は毎日己の体重の半分だけのものを食べなければ死んでしまう。勿論本郷はそんなことはないのであるが冗談めかして言っているのである。
「まあそれはいいじゃないですか。とにかく」
「うむ。まずは何よりもだ」
雨露が凌げる場所が必要なのであった。
「中に入ろう」
「そういうことですね」
こうして本郷も城の中に入った。しかしここでその誰もいない筈の城の中から声がしてきたのである。
「あの」
「むっ!?」
「あれ、先客かな」
本郷は城の中に誰かいるとは思っていなかった。それは式神でこの城を見つけた役も同じであった。しかし今その誰もいない筈の城から声がしたのであった。
「どちら様でしょうか」
「どちら様って言われても」
それに本郷が応える。
「ただの旅人ですよ」
「旅行の方ですか」
「ええ、まあ」
その声に応える。声は若い女のものであり城の中から聞こえてくる。しかし城の中は真っ暗になっていて中までは見えない。そこから声が聞こえてきているのである。
「そうですけれど」
「どちらから来られました?」
「日本からです」
本郷は素直にこう答えた。
「京都って街からですけれど」
「そうですか、日本の方ですか」
女はそれを聞いて何か感じが変わった。本郷も役もその感情の変化が警戒から穏やかになったのも感じたのであった。
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