アインクラッド 後編
Half Point
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と待ってて」とだけ言い残して廊下に消えた。
「……はぁ……」
エミの姿がなくなった隙を突いて、口から大きな溜息が飛び出した。夢の世界で告げられた言葉が、彩度を保ったままで頭の中を巡り続ける。
(『もう、気付いている』か……)
穏やかに、しかしきっぱりと断言されたその言葉を、マサキは鉛のような胸の中で反芻した。
その言葉が本当かどうかは、今のマサキには分からない。
だが、今まで彼女が言ったことの中で的を外していたものは一つもなく、またその言葉を聞いたとき、ぐったりと沈む意識のどこかが僅かに腑に落ちたような素振りを見せたのも事実だった。
「……マサキ」
少しためらうような響きが、思考の奥底に潜り込んでいたマサキの意識を引っ張り出した。呼ばれたことに気付いたマサキは、声のした方向に顔を向ける。
「久しぶり……だな」
同年代の少年と比較してやや線の細い体を漆黒の上下で包んだ、つい二週間前に本気で殺し合った少年――キリトは、喉に引っかかったような声で言うと、まだ幼さの残る顔で不器用に笑って見せた。まるで油が切れたロボットのような歩き方でベッドに近寄り、先ほどまでエミが座っていた椅子に腰を下ろした。
「……で、一体何の用なんだ」
「つれないな。会議の最中にいきなり気絶したどっかの誰かさんを、ここまで運んできてやったって言うのに」
「そうか。……世話を掛けたな」
持ち前の記憶力で『わたし一人じゃ出来なかった』とエミが言っていたのを思い出したマサキは、ぎこちない苦笑を浮かべたキリトに、素直に感謝の意を伝えた。相変わらずどこか落ち着かないキリトは、「いや……」と歯切れ悪く答える。
「…………」
「…………」
そして訪れる沈黙。薬品の匂いが染み付いたシーツの上で、ワインレッドに色づいた夕日がゆらゆらと揺れる。
キリトが様子を見に来た理由が、ただ単にマサキの体調を心配してというだけなのであるならば、もう帰っても構わないはず。なのにそうしない辺り、彼にはまだ、マサキに対して何らかの用事があるのだろうが……。
「……あの、さ」
数分ほどの長きにわたった沈黙の末、ようやくキリトが口を開いた。
「……俺、ギルドを一つ、潰したんだ」
キリトの独白は、その後数十分にも及んだ。彼は今にも消え入りそうな弱々しい声で、クリスマスの夜に蘇生させようとした“サチ”と言う名の少女のこと、そして、彼女が所属していた、今はなきギルドについて話した。
やがて話の時間軸は12月24日を通り越し、キリトもそこで一度口を閉じたためにもう一通りの話は終わりかと思いきや、彼の口は再び言葉を発した。
「……帰った後、アイテムタブに時限式の録音結晶が新しく入ってて
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