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エリクサー
32部分:第三十二章
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第三十二章

「これがな。まだあるぞ」
「まだあるんですか」
「野宿の時の為に用意しておいた」
「身体が冷えないようにする為ですね」
「チーズもある」
 今度はそれも出してきたのだった。
「だからだ。何の心配もない」
「備えはあったんですか」
「備えなくして動くのは愚だ」
 ここでも静かに述べてみせた。
「こういうものがなければ動きはしない」
「そうでしたか」
「さあ、一本受け取るといい」
「じゃあ遠慮なく」
 本当に遠慮なくそのブランデーを受け取る本郷だった。
「頂きますね」
「飲むといい。あとは火を点けて」
「楽しくやりますか」
「何だかんだで機嫌がなおってきているな」
「酒さえあればね」
 微かに笑って役の言葉に頷いてみせる。
「それで満足ですよ」
「それだけでか」
「少なくとも憂いは消えますね」
「確かにな」
 役もよく知っていることだった。酒の薬とはこの効果が大きいことをだ。
「では私も」
「はい、飲みましょう」
「ブランデーは何本でもある」
「何本でもですか」
「私のポケットの中には幾つでもある」
「相変わらず不思議なポケットですね」
 これもまた役の術のうちの一つなのだ。彼の懐からは何でも出て来る。ただしこれについては本郷も彼と大差ない。幾つでも手裏剣なり小刀なりを隠しているのだ。
「それじゃあやりましょう」
「そうだな、飲むか」
「寒いんでそのまま寝たら大変ですけれどね」
「だからだ。その為にも」
「火があるんですか」
「そうだ。では今夜は」
 本郷は役の言葉に応えて笑顔になった。
「ええ。ブランデーとチーズで」
「男二人で外で飲もう」
「そうですね。何とか旅も無事終わりそうですし」
「明日はドイツを発てるな」
「そう思うと寂しくもありますよ」
「安心しろ、またすぐ会える」
「会える!?」
 今の役の言葉は本郷にとってはすぐにはわからないものだった。
「それもすぐにですか」
「その通りだが」
「会えるかもしれませんよ」
 その可能性は否定しない本郷だった。縁というものは実にわからないものだからだ。
「けれどすぐにっていうのは」
「安心していい」
「安心していいって」
 余計にわからなくなる本郷だった。
「どうしてまたそんなに」
「すぐにあちらから来られる」
「あちらからにっていうと」
「これでわかると思うが」
「ああ、そういうことですね」
 頭の中でその言葉を反芻してやっとわかった本郷だった。
「そういうことですね」
「そうだ。それではだ」
「はい」
「その時の用意をしておこう」
 こう本郷に述べたのだった。
「日本に帰ったらすぐにな」
「わかりました。それじゃあすぐに」
「幸い京都には観光すべき場所
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