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久遠の神話
第五十四話 富の為にその七

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「俺と君は」
「どう違うっていうんだい?」
「君は君の為に戦っていないな」
 既にこのことを見抜いての言葉だった。中田は己の為ではなく他の誰か、若しくは何かの為に戦っているというのだ。
「何かまではわからないがな」
「おっと、俺は何か言ったことがあったかな」
「ない、しかしだ」
「察したっていうのかい?」
「その何か、誰かかも知れないが」 
 どちらでもだというのだ。。
「君は自分自身の為には戦っていないな」
「それがわかるのはどうしてだい?」
「己の為に戦う人間は最後の最後では己を護る」
 そうするというのだ。
「己が最も大事だからな」 
「それで戦うっていうんだな」
「己を護ってな。しかし君の戦い方は捨て身だ」
「護ってるんだがね、これは」
「しかしそれは目的の為だ」 
 自分の為ではないそれをだというのだ。
「君のな」
「おやおや、戦いから言っちまったか」
「目的はわからないがな」
 それでもわかるというのだ。
「君は命を賭けて戦っている」
「それであんたはっていうんだな」
「俺は俺の目的の為に戦っている」
 その中田に対して自分はそうだというのだ。
「だから俺は死ぬつもりはない」
「それを戦いに出してるってことか」
「そういうことだ、俺と君の違いはそこだ」
 命を賭けているか護ろうとするかだというのだ。
「そこが全く違う」
「だから俺とあんたは違うんだな」
「全くな。所詮俺は俺だけの人間だ」
 顔にそれは見せてはいない、だが言葉にその自嘲の感情を込めて話したことだ。
「君とは違う」
「随分自分を卑下してる様に見えるがね」
「卑下か」
「ああ、何かね」
「俺は幸せになる為に他人を倒そうとしているからな」
 そうした人間だからだというのだ。
「禄でもない人間だ。しかしそうした人間でもな」
「幸せは手に入れたいんだな」
「そういうことだ、間違っているだろうがな」
 こうした話をしてそしてだった。
 広瀬は自分のジンギスカンの羊肉を食べる、そして言ったのだった。
「このマトンも食っていきたい」
「幸せねえ。難しいよな」
「難しいのは事実だな」
「人それぞれでそれをどうして手に入れるのかもな」
「それもそれぞれだからな」
「全くだね。しかし俺が見たところだけれどな」
 中田は今度は白い御飯を食べながら言った。
「あんたは別に卑しくはないさ。自分で卑下する位にはな」
「慰めじゃないな」
「ああ、違うさ」
 このことも否定する。
「今は言わないさ」
「では事実を言っているか」
「俺の見立てだけれどな」 
 そうした彼が見た事実を言っているというのだ。
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