26部分:第二十六章
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「ええ。これがいつもの化け物だったり」
本郷はここで椅子から立ち上がった。そのうえで役に対して話をするのであった。
「碌でもない奴が相手だったら術を使いますね」
「当然だ」
役もそれは認める。
「その為に常に銃や札を用意してあるのだからな」
「俺もですよ。だから刀やらはいつも持っている」
「何時必要になるかわからない」
例え休息の時でもだ。それが彼等の仕事なのだ。
「だから持っているのだ」
「ですが。今は」
本郷はガウンを脱いだ。そしてそこから上着を着ていく。くつろぎの時間は終わったということであろうか。上着を着る様は何処か鎧を着るようであった。
「あの人は邪悪な人じゃないですね」
「それは間違いない」
二人共よくわかっていることであった。直感で。
「その心に悪しきものは見当たらない」
「じゃあ銃も刀も使えませんよ」
このことを役に強調するのだった。
「絶対に」
「言うまでもなく札もな」
「それもですね」
あくまで悪しき相手に対してだけということだった。それを使うのは。
「じゃあやっぱり」
「そもそも必要ない」
だが役はここでこう言うのであった。
「そうしたものはな」
「必要ありませんか」
「全くな」
こうまで言ってみせるのだった。
「むしろそれに頼っては終わる話ではない」
「終わりませんか」
「本郷君」
そして本郷の名を呼びつつ彼もまた起き上がった。そのうえでまた彼を見やった。
「ここは私に任せてくれ」
「役さん御一人でですか」
「そうだ。それでいいか」
このことを本郷に対して問う。
「私一人で。それで」
「わかりました。まあ俺としては何もしないで助かりますけれどね」
わざとものぐさを装ったような口調だった。本音はあえて隠している。
「それならそれで」
「悪いな。それで行かせてもらう」
「ええ。じゃあそろそろですかね」
「夕食か」
「もうそんな時間ですよ」
壁にかけられている古い大きな時計を見て役に告げる。その時計は数字がローマ数字でありまた造りも立派なものであった。如何にもドイツらしい重厚な造りの時計であった。
「そろそろです」
「早いな」
役もまた時計を見て述べた。
「時間が進むのは」
「時間は決して立ち止まらないですからね」
本郷はまだ時計を見ている。それを見ながらの言葉である。
「だから。早いんですよ」
「そう感じるのか」
「役さんは違いますか?」
「何分生きている時間が長いのでな」
こう答える役であった。
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