第四十五話 俺は宇宙一のヘタレ夫だ
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かけた。うん、美味いな、アンネローゼの料理の腕は随分と上達した。うん、美味い、お世辞じゃなくそう思える。ゆっくり味わいながら食べよう。
お前の意思を尊重するなんて言わなきゃ良かった。そのままでいれば良かったんだ、それなのに……。俺ってどうしようもない馬鹿だ、でもなあ、一度は言わなきゃならんだろう。俺はアンネローゼの気持ちを聞いていないんだから……。あのままじゃ俺達は何時までも中途半端だった。……粉ふき芋、美味しいな。
別れたいって言われて動転した。俺、何時の間にかアンネローゼを愛していた、いや愛していたんじゃない、強く愛していた。ずっと傍に居て欲しいって思ってたんだ。俺を傷つけたくないって言ってた、苦しめたくないって。そんなこと言われたら何にも出来ん、彼女は俺の事を思ってくれているんだ、切ないよ。
アンネローゼがグリューネワルト伯爵夫人の称号とか領地とか欲しがるとは思えん。でもなあ、俺にはそのくらいしかしてやれる事が無いんだ。彼女が生活に困らないようにしてやるしか……。権力なんて何の役にも立たん、俺って無力だ。
金を渡すのだって領民のためとか何言ってんだか……。素直に俺の気持ちだって言えば良かった、このヘタレの根性無しが。……リメスの祖父さんも許してくれるよな、俺は彼女に何かしてやりたかったんだ。祖父さんだって祖母さん相手にそういう気持ちになった事は有るだろう。
もっともリメスの祖父さんもちょっとヘタレっぽいからな、俺がヘタレなのはリメスの祖父さん似かもしれん……。それでも俺よりはましだ、リメスの祖父さんは祖母さんとの間に母さんを作ったんだから。俺なんて何もない、空っぽのこの家だけが残った……。
風邪引いたかな、鼻水が出てきた。おまけに粉ふき芋が滲んで見える。季節外れの花粉症かな……。考えてみれば新婚旅行もしていないし買い物にも付き合ってやれなかった。風呂にも一緒に入ってない。写真一枚残っていないじゃないか。忙しかったし重い物は持てないし右足がアレだから……、情けない夫だ、間違いなく宇宙一のヘタレ夫だ。……彼女との思い出ってこの家の中にしかないんだな、……売るのは止めだ、絶対売らない。他に残っている想い出は執務室だけだ、とてもじゃないがあれは懐かしいなんて思えん。
それなのに俺の印象に残っている彼女は執務室を出て行く彼女の後姿なんだ。ゆっくり静かに執務室を出て行った。服の色は覚えていない、色を覚えているのは離婚届を出した赤のショルダーバックだけだ。それだけは鮮明に覚えている……。笑顔なんて殆ど見た事が無い、印象に残っているのは最後の後姿、俺って不幸だ。
ヒルダが“宜しいのですか”なんて訊いてきたが宜しいわけがないだろう。だがな、離婚届にサインしているんだ、どうすればいいんだ。傷口に塩を擦り付ける様な真似をしない
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