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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第31話 「文句があるなら、宰相府までいらっしゃい」
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てもいなかったぞ。

 ■ノイエ・サンスーシ 薔薇園 フリードリヒ四世■

 珍しい事にルードヴィヒが薔薇園にやってきた。
 何も言わずに小一時間ほど、ジッと薔薇を見つめている。
 何を考えているのやら……。

「……おやじ」

 ルードヴィヒが振り返りもせずに、声を掛けてきた。

「何じゃ」
「皇帝になりたかったか?」

 ふむ。皇帝になりたかったか、なりたくなかったか、と問われるとなりたくなかったな。
 兄も弟もなりたがっておったがのう。

「正直に言うと、なりたくなかった」
「そうだろうな。俺だってそうだ」

 疲れたような声じゃ。
 帝国はそれほどまでに、重いか……。
 帝国二百五十億の人間じゃ。軽いはずがない。
 それでも背負ってもらわねばならぬ。
 そなたは銀河帝国皇太子なのじゃからな。背負う事のできなんだ、わしの言う事ではないが……。

「名も知らず、咲く花ならば……か」

 ルードヴィヒが、咲き誇る大輪の薔薇を眺めながら言う。
 名も知らぬ花々、か。
 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウムは名も知らぬ花ではない。
 現在、この銀河において、もっとも有名な花じゃ。
 うん? シュザンナがマクシミリアンを、抱きかかえてこちらに近づいてくる。
 いかぬぞ。それ以上近づいてはいかん。
 シュザンナが軽く頷いて、立ち止まる。
 うむ、それでよいのじゃ。
 帝国宰相の思考の邪魔をしては、ならぬ。
 ルードヴィヒが振り返った。
 あいもかわらずふてぶてしい、可愛げのない表情を浮かべておる。

「もう、良いのか」
「ああ」
「そうか」

 振り返りもせずに立ち去っていく。
 力強い足取りじゃ。
 そうじゃ、それでよい。
 平凡な幸せも、人生も望むべくもない身の上じゃ。
 どうせ咲くなら、いっそ華麗に咲き誇るがよいわ。

「のうマクシミリアン。あれが銀河帝国皇太子、そなたの兄の姿じゃ」

 そなたはあのようになれるかのう。
 ルードヴィヒと、入れ違うように近づいてきたシュザンナ。
 その腕の中にいるマクシミリアンに向かって言う。

「陛下?」
「なにをどうすれば、あのように強靭に育つのか?」

 我が子ながら分からぬ。
 ゴールデンバウムの呪縛から、解き放たれておる。
 大神オーディンが遣わしたとしか、思えぬわ。

 ■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■

 TV画面の向こうには、オーベルシュタイン准将がいる。

「閣下、ヨブ・トリューニヒトが、フェザーンに向かっているようです」
「そうか、とうとう動いたか」

 第五次イゼルローン攻略戦は、中止になったな。
 情報部の持ってくる情報よりも、人の動きの方
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