第一章
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医者の覚悟
シリア内戦は終わる気配がなかった、独裁者は反対派を容赦なく攻撃し続けている。
そして反対派もあくまで戦い続ける、双方に武器を売る者達もおり戦いは続いていた。
シリア中に戦死者、犠牲者が満ちておりそれ以上に難民達が溢れていた。その彼等を助けようという者がいるのも当然の流れだ。
それは彼もである、巽隆則はその細い目をさらに細くさせて助手の村山嘉一にこう言った。
「酷い状況だな」
「ええ、本当に」
嘉一もその細い顔を顰めさせている、本来は白い顔がシリアの日差しですっかり日焼けしている。隆則は苦味走った顔の四十代の男だ、強い感じの黒髪と細い目が印象的で背は一八〇を超えてしっかりとした体格をしている。
嘉一は細い顔に一重の菱形の目を持っている、細い髪を今は短く刈っている。すらりとした身体は隆則よりも幾分か高い。
二人は今砂漠の中の難民キャンプにいる、そこには多くの負傷者達もいる。
病人も多い、隆則は今病気で苦しそうに横になっている子供を観ているのだ、それで嘉一に言ったのである。
「この子は風邪だ」
「そうですか、ただの風邪ですね」
「ただの風邪でもな」
それでもだとだ、隆則は苦い顔で嘉一に言った。
「わかるな」
「はい、ここにはワクチンがありません」
「ワクチンも栄養剤もない」
「それどころかまともな食べ物も」
滞りがちだ、難民にはよくある話だ。
「ないですからね」
「栄養失調になりかけている」
風邪になっているこの子は、というのだ。
「体力が落ちているからな」
「風邪になったんですね」
「これではな」
隆則は苦い顔で言っていく。
「この子だけでなくな」
「他の子供達もですね」
「風邪でさらに体力が落ちるとな」
「もっとまずい病気が流行りますね」
「とりあえずこの子の風邪を治す」
今はそうするというのだ。
「そしてだ」
「他の子も観ましょう」
「そうしないとな」
二人はまず風邪の子供を観た、そのうえで風邪薬を飲ませた、この子供はまずはこれでよかった。
だが、だった。病気になっている者も傷ついている者もまだ多くいる、二人は負傷者の手当や診察も行っていた、そのうえで難民と共にいた。
診察が終わったのは深夜だった、二人は全ての手当と診察が終わってから遅い夕食を摂った。嘉一は乾パンをかじりながら缶詰の肉を食べる隆則に問うた。
「この内戦全然終わらないですね」
「両方必死だからな」
「政府も反政府勢力もですね」
「ああ、生き残った方が倒した方を完全に潰すからな」
「だから両方必死なんですね」
「そうだ、この内戦はな」
そうした性質になっているというのだ、最早。
「どうしようもない」
「じゃ
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