第八章
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「それじゃあどうにもならないだろう」
「結婚もよ」
今度は母が言ってきた。
「あんた不況だから結婚出来ないとか考えていたでしょう」
「まあそれはね」
まさにその通りだ、息子は母に申し訳ない顔で返した。
「そう言われるとね」
「そうでしょ、けれど見なさい」
「姉さんだね」
「ここの旦那もよ」
酒場のこの店の親父もだというのだ。
「髪の毛がないのに結婚出来たのよ」
「おい、髪の毛はないだろう」
親父は少し怒ってそれでいて笑っている顔でマルカーノの母に言った。
「けれどその通りだな」
「しかもこんな美人とね」
美女、女将も笑って言ってくる。
「一緒になれたのよ」
「だからあんたもよ」
母はあらためて息子に言う。
「いいわね」
「ううん、そうなんだ」
「もっと心に余裕を持ちなさい」
幾ら不況でも店の売り上げが減っていてもだというのだ。
「さもないとなってくるものもならないわよ」
「そういうものなんだ」
「私も結婚出来たのよ」
姉もだ、弟に言ってきた。
「それならあんたもよ」
「結婚出来るんだ」
「安心しなさい、不況の中でも子供が産まれなかった時はないわ」
結婚してだ、世界恐慌の中で常識外れのインフレの中に陥ったドイツでも子供は産まれていたのだ、結婚もしていたのだ。
「だからね」
「そうだね、じゃあ」
「もっと余裕を持て」
また父が言ってきた。
「じゃあいいな」
「うん、これからはそうするよ」
「それじゃあ今からね」
あらためてだ、姉が言ってだった。
店で彼の誕生パーティーが行われた、酒場の人気メニューにワインにケーキがふんだんに出た楽しいパーティーだった。
そのパーティーの後の帰り道にだ、マルカーノは赤ら顔で共にいるヒメネス、やはり真っ赤な顔になっている彼にこう言ったのだった。
「確かに不況でもね」
「ええ、僕達それを気にし過ぎでしたね」
「明るさはなくしていなかったつもりだけれど」
だが、だった。不況と店のことだけで二人共頭が一杯だったのも確かだった。
そのことに気付かさせられてだ、彼は言うのだ。
「そればかり考えても駄目だね」
「そうですね、他のことも沢山考えて心を広く持たないと」
駄目だとだ、ヒメネスも言う。
「僕そのことを教えてもらいました」
「僕もだよ、それじゃあ」
「それじゃあ?」
「誰かいい娘でも見つけようか」
前を見てだ、こう言うマルカーノだった。
「そうしようか」
「そうですね、僕も」
「君も相手見つけるんだ」
「はい、誰か可愛い娘を」
明るい笑顔でだ、ヒメネスはマルカーノに話す。
「そうしようか」
「それがいいですね、それじゃあ」
「うん、これからは色々と考えて見ていこう」
「景気だの売
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