16部分:第十六章
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「そうでしたね、あれはドイツでした」
本郷もそれを思い出したのだ。グリム童話は日本でもよう知られているがドイツでの童話だ。だからそこに出て来る家もドイツのものなのである。
「じゃあそれを思い出しても不思議じゃないんですね」
「そういうことだ。もっとも私達はその豚を食べるかも知れないがな」
「今から」
「豚が多いな、本当に」
役もそれをあらためて考える。
「ドイツ料理は」
「牛は思ったより少ないんですね」
「農作業に使っていたからな、昔は。それに」
「乳業にも使いますしね」
だから牛は比較的食べられなかったのである。肉を食べてしまえばそれで終わりである。しかし農作業に使ったりその乳を飲んだり食べたりすれば幾らでも使える。そうした意味で牛というのは非常に使える生き物なのである。少なくともそう簡単に食べたりするわけにはいかない動物なのであった。かつては。
「だからですね」
「豚はどうしてもそうなるからな。だが何はともあれ」
「はい、入りましょう」
本郷も言うのであった。
「歩いたせいか腹が減りましたし」
「私は喉が渇いた」
二人は求めるものはそれぞれ違うが求めるものがある場所は同じであった。それが今目の前にあるその童話に出てきそうな家なのである。
「じゃあまあとにかく」
「中に入るぞ。いいな」
「ええ、是非」
本郷はにこりと笑って答える。
「入りましょう」
こうして二人は店の中に入った。店の中は落ち着いた家庭風の造りで外観よりも広い中身であった。木造りの椅子やテーブルがいい雰囲気を醸し出していあ。店のコックと思われる親父もおかみも気のよさそうな外見でありそれもまた如何にもドイツの家庭料理の店らしかった。まずはそれ等が二人にとって非常にいい印象を与えるのであった。
「いらっしゃい」
「どうも」
本郷がにこりと笑っておかみの言葉に応えた。そうして役と共にそのおかみが薦める席に向かいそこに向かい合って座るのであった。
「何にしましょうか」
「そうですね」
本郷はここでメニューを開く。だが役はそれより前におかみに対して言うのであった。
「そうだ」
「はい?」
「まずワインは赤で御願いします」
「赤ですか」
おかみはそれを聞いて満足気な笑みになった。そのうえで役に対して言葉を返してきた。
「お兄さんアジア系のようだけれど」
「日本人です」
「ふうん、日本人なのかい」
日本人と聞いてあらためて奇異な目になっていた。まるで珍しいものを見るかのように。
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