〜五学年〜
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イドボーンが卒業してからの二年間を思い返した。
+ + +
戦術シミュレータ大会はおまけのようなものだ。
実際に原作の中にはなかった。
やはりこの二年で一番大きな出来事は、エルファシルの事件であろう。
民間人を見捨てた将官を囮にして、無事に民間人を帰還させたのが宇宙暦788年……つまりは、昨年のことだ。
卒業後わずか一年余りでの快挙であり、ヤンは現在は少佐である。
エルファシルの英雄ともてはやされて、雑誌の結婚したい男性1位にもなっていた。
その時の士官学校の手のひら返しは実に面白いものだった。それまでヤンを批判していた教官がテレビに出て、『彼はいつかやる人間だと思っていました』と話した瞬間、隣にいた別の教官が『こいつまじか』とばかりに隣を見たのには笑った。
それでも事件自体は原作通りに進み、ヤンは昇進し、そしてアーサー・リンチ少将は捕まった。前線も後方も出来る有能な士官であったらしいが、彼一人救うつもりはアレスにはなかった。もっとも士官学校からエルファシルの事件に介入など不可能であったのだが、例え可能であったとしても介入しなかっただろう。
アレスは思う。
原作を知っていることはあまり強いことではないと。
確かにそれぞれの性格や人間関係は知っている。
だが、それは表面上の理解であって、ワイドボーンのように出会いが人間を変えることもある。 それが百パーセント間違いないと思っていたら、大きく怪我をするだろう。
そして、もう一つ。
アレスは知っている。
これから起こる事件や大戦を。
だが、それはたった一回だけの未来を変える権利のようなものだ。
ここでエルファシルを止めてしまったら、その後も同じように物語が流れると思わない。
いや、流れるわけがない。
単純な人事でもアーサー・リンチ少将は同盟の中心に来るであろうし、逆にヤンは同盟軍の閑職に回されて、本当に10年で退役しかねない。
同様に他の事件もそうだ。
だから、それまではそれこそ戦術シミュレータ大会のように微妙な介入をするしかない。
もっともどこからは大丈夫で、どこまでが駄目の線引きがないから困るわけであるが。
まだ大丈夫なのか。
それとももう変わってしまったのか。
「どうしたの、黙ってさ」
「ああ、カオス理論って奴を考えてね」
「何それ」
知ってるとスーンはフェーガンを見て、後悔した。
彼が知っているわけがない。
「某有名な数学者の言葉だよ。蝶の羽ばたきが別の場所の天候を変えることもある――バタフライ効果って奴さ」
「とりあえず一ついい?」
「ああ」
「なんでそんな難しいことを事を考えてんのさ。いつも言ってる、歴史が変わると困るって奴?」
「間違えては
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