第三章
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「ブルネイからね」
「へえ、あの国の人かい」
「そうよ、マルヤム=ワルシャーンっていうのよ」
これが彼女の名前だというのだ。
「仕事はフライトアテンダントよ」
「随分洒落た仕事だね」
「そうでしょ。実は私アルゼンチンには仕事で何度か行っていてね」
「それでタンゴも出来るんだな」
「得意よ、それでタンゴは本来はね」
得意げに笑ってサイチチャンに言う言葉はというと。
「男と女でするものでしょ」
「つまり俺と踊りたいのかな」
「違うわ、あんたよりもね」
リューに顔を向ける、そのうえで言う言葉だった。
「マスターとよ」
「おや、私とですか」
「前からいいって思ってたのよ」
それで彼と踊りたいというのだ。
「タイプだけれどね」
「私には妻も子もいますが」
「踊る位ならいいでしょ」
誘う笑みでリューに問う。
「それ位なら」
「積極的ですね」
「踊りに関してはね。けれどそこまでよ」
「それ以上はですね」
「約束させてもらうわ、誘わないから」
「それでは」
リューもここまで聞いたうえでワルシャーンに応えた、そしてだった。
今度は彼女と踊ることにした、だがここで一人余ることになった。
サイチチャンは二人が踊る用意に入ったのを見て肩を竦めさせてからこう言った。
「じゃあ俺は席に戻って飲みなおそうか」
「いや、待ってくれるかしら」
ここでまた一人立ち上がってきた、今度も女だった。
今度は白いドレスの褐色の肌の持ち主だ、波がかった細い黒髪を腰まで伸ばし紅の唇を持っている。丸く大きな目で顔立ちは鋭利な感じだ。
その彼女がだ、こうサイチチャンに言って来たのだ。
「私も踊りたいから」
「俺とかい?」
「ええ、そうよ」
笑顔での言葉であった。
「駄目かしら」
「おやおや、ここで美人さんからのお誘いがあるなんてね」
「私も踊りは好きだから」
「それでかい」
「仕事だからね」
ここでこう言って来た美女だった。
「私のね」
「へえ、あんた見たところインドネシア出身だな」
「あら、わかるのかしら」
「感じでな」
その髪や顔立ちがだというのだ。
「そっちだったからな」
「わかるのね、それだけで」
「インドネシアにも結構行ってるんだよ」
仕事でだ、そうしているからだというのだ。
「だからわかるんだよ」
「そういうことね」
「踊りね、ダンサ−かい?」
「バロンダンスもね。弟と組んでるのよ」
「じゃあ弟さんと今も一緒かな」
「あの子は真面目だから飲まないのよ」
真面目なムスリムだからだというのだ、インドネシアではムスリムが多く敬虔な者は今も酒を飲まないのだ。
それでだ、彼女だけだというのだ。
「それで私が一人だけでね」
「そういうことか」
「そ
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