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LIAR
第一章
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              LIAR
 嘘は嫌い、彼にもいつも言っている。
 けれど彼は今嘘を吐いていた、その私に対して。
「昨日は忙しかったんだよ」
(言える訳ないだろ)
 心の中で言っていた、実は私は人の心の中で言っている言葉がわかる。
 彼は目を必死に泳がせまいと悪戦苦闘しながら私に嘘を言い続ける。喫茶店のコーヒーカップを持つ手は白くなっている。
 その手に気付かないまま私に言う。
「会えなかったよ」
(俺の家であの娘と会っていたなんてな)
「御免、また今度埋め合わせするから」
(あの娘とはこれからも付き合っていきたいな)
「そう、わかったわ」
(よくね)
 私も心の中で呟いた。
「じゃあまた今度ね」
(その娘と会うといいわ)
「悪い、本当にな」
(よかった、ばれていないな)
(ばれているわよ)
 私は心の中で突っ込みを入れた。
(貴方は気付いていないけれど)
「暫く忙しくなりそうでさ」
(ここで一気に親睦を深めていくか)
 彼の心の言葉が本当によく聞こえる。
「会えないかも知れないよ」
(やっぱり若い娘の方がいよな)
「わかったわ」
(よくね)
 私も心の中で呟きながら返した、そうしてだった。
 今日は彼とは別れた、その時手を振る彼の心の言葉をまた聞いた。
(今から携帯で連絡するか)
「メール送ってね」
 少し意地悪をしようと思ってこう言った、それですぐに狼狽した彼の顔を見て少しだけ気を晴らさせて家に帰った。
 私は人の心がわかる、口ではどう言っても本音は別だ。
 仕事場でもだ、課長に怒られている後輩の娘が呟いていた。
「すいません」
(鬱陶しいわね、この禿)
 髪の毛が薄くなっている課長への悪態だった。
「もう二度としませんので」
(黙ってなさいよ、奥さんにキャバクラ通いばれて苛立ってるんでしょ)
(女房もキャバクラに一回行っただけで何だよ)
 課長も課長で心の中で愚痴っている。
「娘の愛実も。不潔とか言いやがってよ)
(ったく、そんなのだから娘さんにも嫌われるのよ」
 後輩の娘は怒り続ける課長jに悪態をつき続けている。
「禿でデブで鼻毛も出てる、どんだけださいのよ)
(息子は息子で女の子をとっかえひっかえか。女房の兄さんに似たせいかよ)
 そんなことを呟き合いながらのやり取りだった、けれど二人共心の中で言っているだけだから何の問題もない。
 私も聞いているだけだ、そのうちに説教は終わった。
 後輩の娘は私の隣の席に戻って来た、私はその彼女に声をかけた。
「大変だったわね」
「すいません、気を使ってもらって」
(全然)
 また心の中の言葉が聞こえる。
「これから気をつけますので」
(あの禿の八つ当たりなんかいちいち気にしてられないわよ」

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