10部分:第十章
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第十章
「それではこれからは」
「それでですね」
役はまたエルザに対して言う。
「はい?」
「私達は明朝こちらを発たせて頂きますが」
「それですけれど」
エルザはふとした感じで二人を止めるように言ってきた。
「?何か」
暫くこのチューリンゲンにおられるのでしょうか」
「ええ、まあ」
この質問には本郷が答えた。
「そうですけれど」
「そうですか。それは何よりです」
まずはその問いに微笑むエルザであった。
「それでですね」
「ええ」
話がエルザのペースになってきた。二人はそれを感じ取りながらも話を続けるのであった。
「若し御二人が宜しければですけれど」
「はい」
「何でしょうか」
「チューリンゲンにおられる間ここを宿にして頂けるでしょうか」
「この城をですか」
「そうです」
エルザは言ってきた。
「それでは駄目でしょうか」
「役さん」
本郷はエルザの言葉を受けて役に顔を向けた。今はフォークも手を止めていた。
「どうしますか」
「難しい話だな」
役もこれには少し困惑を見せていた。
「どうしたものか」
「あのですね」
本郷もまた困惑した顔になっていた。その顔でエルザに対して言うのである。
「あまりその。宜しいのでしょうか」
「はい」
ドイツ語としても日本語としてもおかしくなっている言葉であったがエルザはその言葉に対してここでも無機質な感じで答えてきた。
「私は構いません」
「ですがお兄さんがおられるのですよね」
「兄には私から話しておきます」
こう言葉を返してきた。
「ですから御安心下さい」
「どうしましょうか」
「フロイラインはああ言っておられるが」
役もまた困りながら本郷に言葉を返す。
「さて。どうするか」
「お嫌でしょうか」
エルザはまた二人に問うてきた。
「私では」
「そうではないですけれどね」
本郷はこの言葉にはそうではないと否定の言葉を返した。
「料理も美味しいですし」
「そうですか」
とは言っても今はその料理を食べるフォークもナイフも止まってしまっている。それは話が真剣なものになっているからに他ならない。
「ですが」
「それではですね」
「ええ」
エルザは提案してきた。
「若しです」
「若し、ですか」
「兄が明日の朝帰って来ます」
これは今はじめて聞く話であった。二人はそれを聞いてまた表情を変える。今度は警戒したものになってきていた。その顔でエルザの言葉を聞いていた。
「兄がいいと言えばそれでいいと。どうでしょうか」
「リンデンバウムさんですね」
「はい、そうです」
そう二人に答えた。
「医者をしていますのでよく博士と呼ばれていますけれど」
「成程」
本郷はその博士という言
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