第九章
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「隊舎の中は来れまい。あれだけの結界を張るのには苦労したがな」
ニヤリ、と笑う。どうやら相当の自信がある様だ。
夏期講堂から目を離し教官室の方を見る。廊下を見渡した後映写講堂を見る。
「あの花は見えるかな」
ふとあの赤い花の事を思い出す。そして目をやる。
見れば相も変わらず赤い花を咲かせている。夜だというのにその中に赤い光を発するように咲いている。
「あそこまでいくとかえって不気味だな」
そう思いながら見ていた。ふとその花が妖しく動いた。
「むっ!?」
花が急に大きくなる。花びらが人の形を取りはじめる。
「どういう事だ・・・・・・」
植物の妖怪とも何回か闘った事がある。『ほうこう』という木の精の一種や呪木っ子という妖怪等である。
「人に変化する物の怪か・・・・・・」
見た所西洋の妖精に近いのかも知れない。緑の長い髪を持つ全裸の若い女に変化した。
「緑の髪・・・・・・」
それには心当たりがあった。海中を捜索していた時頭上から彼を襲ったあの緑の槍だ。
「あいつか。間違い無い」
本郷は屋上から降りた。そして隊舎を出た。
女怪は教官室の上の階の廊下を進んでいた。本郷の事には気付いていないようだ。
映写講堂の方を遠回りに回りその廊下へ向かう。彼が着いた時女怪はそこにはいなかった。
「何処だ」
辺りを警戒しつつ前へ進む。既に刀を抜いている。
廊下の中央に出た。上下へ進む階段がある。
「どちらだ」
強い花の香りがした。赤煉瓦の前で嗅いだあの香りだ。それは上の方からした。
「上か」
階段を登る。三階に出た。
香りは更に上にまで続いている。それは屋上にまで続いていた。
「屋上か」
学生隊長の言葉を思い出した。暑い時にはよく屋上で寝たものだと。
屋上へ上がった。そこにはあの女怪がいた。
こちらに背を向け前へ進んでいる。だが本郷の気配に気付きこちらを振り向いた。
白い肌に赤い血の様な眼をしている。人の血を吸う魔物には紅い眼を持つものが多い。
「やっと会えたな。思えば遠回りしたものだ」
あの花が正体だったとは。今思えば妙な事が多過ぎた。
「もっともそちらは早いうちからこちらの事には気付いていた様だがな」
左手で刀を構える。右手には短刀を持つ。
「海でのあの緑の槍、御前の仕業だな」
それに対し女怪は笑みで答えた。魅惑的でありかつ残忍さをたたえた笑みだ。
「そうだとしたら?」
高く澄んだ美しい声である。しかし何処か血の混ざった感じがある。
それは肯定であった。それが証拠に右腕を本郷に向けてきた。
「だったら話は速い。宣戦布告はとっくの昔に行なわれているんだしな」
本郷はその目を光らせた。
「どういたしまして。そしてそれは受け取るの?どうするの?
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