第百四十一話 姉川の合戦その十一
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それを見ながらだ、長政は二人に言った。
「では名残惜しいがな」
「帰られますか、小谷城に」
「そうされますか」
「また会おう」
こう言ってだった、そうして。
長政は二人に槍を流れ星の群れの如く次々と突き入れてそれで間隔を開けさせた、そうしてからだった。
一気に踵を返して去る、それを受けて精兵達も下がる。
浅井の軍勢は既にかなりの数が戦場を離脱していた、丁度朝倉の軍勢を退けた家康も退く彼等を見た。
そのうえでだ、家康は唸る様にして言った。
「一万で十万の兵を相手にしていたが」
「それでもですな」
「かなり残っていますな」
「七千程か」
それだけ残っていた、今の浅井の軍勢は。
「三割で逃れたか」
「普通よりやられていますが」
「十万の兵が相手では」
「流石じゃ、長政殿は」
こう唸るのだった、彼等を見て。
「見事な戦いぶりじゃった」
「だからこそ惜しいですな」
井伊もその武辺を見て言う。
「あれだけの方が去られるとなると」
「何とかならぬか」
家康もだった、長政の命は助けたかった。
「ここは」
「難しいですな、それは他ならぬ信長様が最も願っておられることですが」
それでもだとだ、酒井も言う。
「ですがそれでも」
「ああして戦われているからじゃな」
「あの方は既に覚悟を決めておられます」
しかも尋常ではない覚悟であった。
「ですから」
「そうか、では」
「これから我等は小谷城を囲みそのうえで朝倉攻めとなりましょう」
小谷城を囲みそれで浅井の動きを止めその間に越前を攻めるというのだ、信長は今度こそ朝倉家を降すつもりなのだ。
「ですから」
「それまでに何とかせねばな」
「はい、是非共」
酒井も長政が助かることを願っていた、その可能性がどれだけ低くとも。
そう願いそしてだった、彼等は朝倉の兵を追いながら浅井の兵が小谷城に向けて駆けていくのを見届けた。
姉川での戦いは黒田の策を入れた織田家の勝利に終わった、だがこれで終わりではなかった。
信長は勝どきの後すぐに周りの者達に言った。
「すぐに都に文を送れ」
「都にですか」
「勘十郎と三郎五郎に小谷城の囲みは任せる、その間にじゃ」
「朝倉家をですか」
「いよいよ」
「うむ、攻める」
まさにそうしてだというのだ。
「よいな、ここで何としてもじゃ」
「はい、まずは朝倉家です」
黒田もこう信長に述べた。
「あの家を降せば浅井家は完全に孤立します」
「そしてじゃな」
「はい、そうです」
「猿夜叉の頑固さもこれで終わらせる」
そしてそれによってであった。
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