第百四十一話 姉川の合戦その十
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「阿修羅じゃな」
「ですな、まさに」
「あの戦ぶりは」
森と池田が長政のその戦いぶりを見ながら応えた。
「あれではです」
「とても近寄れませぬ」
「一騎当千どころではない」
その言葉を超えているというのだ。
「あの強さはな」
「ですな、それでは」
「どうしましょうか」
「今のあ奴には慶次か才蔵位しか相手に出来ぬ」
到底だというのだ。
「あの二人のうちのどちらかを向かわせるしかないが」
「ですな、それでは」
「今より」
「あの二人に伝えよ、しかしじゃ」
向かわせてもだ、それでもだというのだ。
「二人がかりでも。今の猿夜叉は倒せぬであろうな」
「あの二人でもですか」
「今の長政様は」
「見事じゃ、だからこそな」
その阿修羅の如き戦い故にだというのだ。
「あ奴は死なせぬ」
「ですか、では」
「何としても」
「生け捕りに出来ればよいがな」
その為にも慶次達を向かわせた、だがだった。
一騎当千の彼等を以てしてもだった、今の長政は二人でようやく互角だった。実際に槍を交える慶次もこう言う。
「ううむ、これは」
「お見事じゃな」
「全くじゃ」
こう可児に言う慶次だった、二人共長政の槍を防ぐので必死だ。
「まるで項王じゃ」
「史記じゃな」
「左様、あれの項王じゃ」
覇王と呼ばれ伝説的な武勇を誇ったあの英傑に匹敵するというのだ。
「強いわ」
「そうじゃな、まさに鬼神じゃ」
「わしは強い相手が好きじゃ」
慶次は長政の槍を受けながら言う。
「いや、長政様もな」
「その言葉有り難く受け取っておこう」
長政も慶次にこう返す。
「天下一の武辺者である前田慶次殿に言って頂けるとはな」
「いや、それがしは武辺者ではありませぬ」
「おっと、不便者でござったな」
「左様です」
笑みを含んだ言葉で返したのだった。
「それがしは」
「そうであったな、しかしわしもまた不便者であろう」
長政は慶次の自称から自嘲に移った。
「所詮はな」
「長政様がですか」
「そうじゃ、わしはな」
長政もまた、だというのだ。再び。
「融通が効かぬ、固いだけのな」
「不便者でありますか」
「だから今も戦う」
この様に自ら槍を手にして後詰を務めてだというのだ。彼と精兵達が凌いでいる間に浅井の兵達は逃げていっている。
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