第百四十一話 姉川の合戦その九
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「そのうえで今本陣に合流してじゃ」
「我等の前にいるのですか」
「十一段の将兵達が」
浅井の者達は全てを察した、何もかもが信長の策だった。
そしてその彼等の前にだ、青い南蛮の甲冑を思わせる具足にやはり南蛮のマントを思わせる青の陣羽織の男が出て来た、彼こそが」
「義兄上・・・・・・」
「猿夜叉、久しいな」
信長は長政と対面した、両者は上と下に分かれて話す。
「元気そうじゃな」
「義兄上、いえ右大臣殿も」
「よい、他人行儀はな」
信長は長政の義理の兄として応えた。そのうえで己の眼下にいる長政に対して言う。後ろには彼が股肱と頼む織田家の家臣達が揃っている。
「御主も来い」
「来いとは」
「事情は察しておる、御主達のことはよい」
こう長政に言うのだ。
「早くここに来い」
「有り難いお言葉なれど」
それでもだとだ、長政は信長に返した。その目は毅然として彼から見て上にいる信長に対していた。
「受け入れることは出来ませぬ」
「久政殿か」
「それは」
「孝じゃな」
儒学の言葉だ、親へのそれである。
「それ故にか」
「・・・・・・・・・」
「言えぬな、わかっておる」
信長は長政の心を全てわかっていた、そのうえで応えるのだった。
「ならば攻めるまでじゃ」
「では」
「だが言っておく、わしは御主を死なせるつもりはない」
それは決してだというのだ、自らが率いる十万の兵にも彼等を率いる家臣達にも言うのだった。
「市の婿、どうして死なせるものか」
「お心だけを受け取らせて頂きます」
こう言葉を交えるだけだった、そして。
浅井の軍勢から見て左、そこから鬨の声が上がった、そしてだった。
美濃四人衆の軍勢が横から来た、そのうえで。
信長も居並ぶ諸将達に命じたのだった。
「攻めよ、よいな」
「はい、それでは」
「今より」
柴田や佐久間だけではない、他の諸将達も応えてだった。
織田家の主力も浅井の軍勢に雪崩を打って攻め下る、そのうえで攻めるのだった。
最早勝敗は明らかだった、それを見てだった。
長政は敗北を悟った、最早こう言うしかなかった。
「全軍小谷城まで下がるぞ」
「はい、こうなってはですな」
「致し方ありませぬ」
「後詰はわしが務める。皆わしに構わず逃げろ」
「いえ、ですがそれは」
「殿が残られては」
「わしは死なぬ」
例えだ、何があろうともだというのだ。
「だから安心せよ」
「では小谷城でお会いしましょう」
「再び」
「ではな」
浅井の家臣達は長政の心を受けてそのうえで下がった、そのうえでだった。
長政は迫る織田家の大軍に槍を手にして立ちはだかる、まさに髪の毛を総毛立たせ鬼神となって立ちはだかる。
そしてだ、そのうえでだった
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