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戦国異伝
第百四十一話 姉川の合戦その八
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「あと少しで勝てるぞ」
「では」
「これから」
「皆このまま突き進むのじゃ!」
 織田家の本陣にだというのだ。
「わかったな!」
「はっ!」
 浅井の軍勢は遂に織田家の本陣からあと僅かの場所にまで至った、槍があと数秒で届くという場所まで来た。  
 だがここで鉄砲の轟音が鳴り響き織田家の本陣から丸太や石が投げられて来た、それを見てだった。
 長政は突き進む中で咄嗟に叫んだ。
「いかん、かわせ!」
「は、はい!」
「すぐに!」
「まずはかわすのじゃ!」 
 その丸太や石をだというのだ。
「そしてじゃ」
「あらためてですな」
「織田家の本陣に」
「そうじゃ、迫れ」
 今この丸太や石をかわしてだというのだ。
「見よ、丸太も石も然程大きくないわ」
「確かに、鉄砲も音だけです」
「それではですな」
「うむ、かわせ」
 ここは落ち着いてそうしろというのだ。
「それからじゃ」
「攻めましょうぞ」
「あらためて」
 こう言ってそしてだった、浅井の軍勢は前に出るのをすぐに止めて丸太や石を咄嗟にかわした。それで何とかことなきを得た。龍ヶ鼻は高く下から迫る彼等が咄嗟にかわすことを選んだのは長政のよい断であった。 
 だがここで隙が出来浅井の動きも止まった、それでだった。
 彼等が再び出ようとした時にだ、織田家の本陣はというと。
 長政は唖然となった、何とだ。
「何っ、あの数は」
「何という多さか」
「十万はいますと」
 家臣達もそれを見て驚いていた。
「十二段のうち十一段を破ったというのに」
「まさか織田家の領内の兵を全て持ってきたのか」
「それであの兵なのでしょうか」
「二十万近くも」
「いや、それはない」
 長政もその大軍を見ている、そのうえで驚く家臣達に述べた。彼は冷静さを保っている。
「織田家はここには十一万の兵を持ってきておるがな」
「では何故」
「あれだけの兵を」
「そうか、後ろを見よ」
 長政は家臣達に言った。
「我等の後ろをな」
「後ろ!?」
「後ろをですか」
「そうじゃ、後ろじゃ」
 そこをだというのだ。
「後ろを見てみよ」
「!?」
 家臣達はここで彼等の後ろを見た、するとだった。
 破った筈の十一段の陣にいた織田家の者達が誰もいない、その誰もがだ。
 ここで誰もが破った、何故目の前に十万の大軍がいるのかを。
「陣を破ってもですか」
「ああして本陣と合流したのですか」
「破られてすぐにですか」
「下がってああして」
「陣を破っても将も兵も生きておる」
 ここで長政は言った。
「我等がどれだけ駆けようとも山を登る、しかし道を整えておればな」
「素早く本陣まで、ですか」
「登れるのですか」
「そうじゃ、布陣の時に整えていたのじゃ」

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