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吸血花
第五章
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げなんてそこいらに幾らでもある」
 狐の可能性も消えた。
「鬼か」
 本郷の顔色が変わった。
「だとすれば問題だ。江田島は山が多いから隠れる場所が多過ぎる」
 ちらりと左手を見た。そこには古鷹山がある。
「あの山にしろ険しいしな。鬼が潜んでいても誰も解からない」 
 しかしここで眉を顰めた。
「だがこの血の吸い方はどう見ても鬼のやり方じゃないな」
 鬼は普通人の血より肉を好む。血はあくまで酒と同じく嗜好品なのである。実際酒に混ぜて呑んでいたりする。
「余計解からなくなってきた。結局何なんだ」
 そこへ井上二尉が入ってきた。
「あれ、どうしました?」
 本郷は意外な来客に少し戸惑った。
「実は先程の巡検中にこれを拾いまして」
 ズボンのポケットからさっきの花びらを取り出した。
「これは・・・・・・」
 人目見て解かった。赤煉瓦の前に咲いていたあの花のものだ。
「教官室の前に落ちていました。掃除の不備かと思いましたが場所が離れ過ぎていましたのでおかしいと思いまして」
「確かに。普通あそこから教官室までこんな物は飛んで来ませんし」
「それに朝の清掃で既に除去したと学生の方から報告を受けています。伊藤二尉が点検に行きましたが確かに除去されていました」
「だったら何故」
 本郷は首を傾げた。
「ちょっと気になりますね。赤煉瓦の前まで行っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
 彼の許しを得て赤煉瓦の前へ向かう。赤煉瓦は真っ暗闇であり人の気配は無い。
「こうして見るとかなり不気味な建物だな」
 ポツリと呟いた。この学校は兵学校からの歴史もあり幽霊話も極めて多い。
 懐中電灯を点ける。井上二尉から借りたものだ。
「この辺りだな」
 懐中電灯で照らしてみる。あの赤い花は何処にも見当たらなかった。
「やっぱりな。じゃあどういう事だ」
 ゴミ捨て場は隊舎の一階にある浴室のすぐ下にある。教官室からはかなり離れている。
「風が吹いてもあそこまで飛ぶとは考えられない。ましてや午前中のゴミはとっくに捨てられている」
 考える。その時ふと芳しい香りがした。
「これは・・・・・・」
 それは花の香りだった。きつい、何処か癖のある自己主張の強い花の香りだった。
「・・・・・・ダリアか?」
 その花の香りはダリアのものに似ていた。だが違っていた。ダリアの香りはここまできつくはない。
「違うな。何の香りだ」
 その時本郷の全身に寒気が走った。恐ろしい妖気を感じた。
「!!」
 咄嗟に身構える。懐から短刀を抜いた。
「そこかっ!」
 気配のした方へ短刀を投げる。そして背中から刀を抜いた。

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