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吸血花
第三章
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ラウンドを歩きながら言った。
「それに景色もいいですね。緑が多い」
「ええそうでしょう、観光地にもなっておりますしね」
 よく日に焼けた顔の男性が側についている。階級は二尉、歳は二十七程であろうか。妙に澄んだ瞳が印象的だ。
「掃除も徹底させておりますよ。海軍からの伝統ですしね」
 見れば砂地も綺麗に手入れされている。よくはかれている。
「それは私達が監督しています。少しでも手を抜けば容赦しません」
 にこりと微笑んで言った。その顔がまた妙に子供っぽい。
 この二尉こそ幹事付である。彼は赤鬼、二人いる幹事付のうちの一人である。
「えっと・・・井上二尉でしたっけ」
「井上は相方です。私は伊藤といいます」
「あ、すいません。伊藤さん」
「はい」
 伊藤二尉は新ためて本郷の話をうかがった。
「あそこにある花は何ですか?」
 赤煉瓦の前に咲いている一輪の赤い花を指差して尋ねた。
「?あれですか?」
 伊藤二尉はその花を見て目を見開いた。
(?どういう事だ?)
 本郷はその反応を見て不思議に思った。まるで見た事も無い、といった顔だったからだ。
「ちょっと行ってみましょう」
 伊藤二尉に誘われ花のすぐ側まで行く。ダリアによく似た派手な花だった。
「ダリア・・・・・・じゃないですね」
「それよりもこの花を見たのは初めてなんですが。こんなとこにあったかなあ」
「え!?」
 首を傾げる伊藤二尉を見て本郷は思わず声を出した。
「いえ。この候補生学校に植える草花は購入する段階で皆決められているのですよ。雑草なら清掃の時に抜かれますし。小さい花ならともかくこれだけ目立つ花が抜かれない筈は無いですしね」
 伊藤二尉が花を見下ろしながら言った。
「それにしても・・・綺麗ですが妙な感じの花ですね」
 伊藤二尉は言葉を続けた。
「確かに。何か変に赤い花ですね」
 本郷もそれに同意した。見れば絵の具、いや鮮血を塗ったかの様に不自然な色の赤であった。
「全部の花を知っているわけではないですがこんな色の花は・・・・・・。見た事が無いですね」
 少し顔を顰めて言った。首を思いきり傾げている。それにしてもこの人はどうも花に詳しいようだ。

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