魔石の国―Law and affection―
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らい歪んでいた。
だが長老は判決を変えなかった。
「掟は絶対じゃ」
側近である黒マントの男の一人が補足する。
「あなた方の子供は塔に近づいただけではない。あの塔には何人たりと立ち入れないよう、封印が施されていました。あなた方の子供はその封印を解き、なおかつ塔の内部でオーブと共にいた」
夫婦は返す言葉を失った。ただ愕然とするのみだった。
「塔に行っていたことは、殺さなくてはならないぐらいの重罪なんですか?」
キノは黒マントの男に尋ねた。
「キノさんは旅人でしたね。疑問に思われても仕方ない」
男はキノの質問に答えた。
「この国には、この世界全ての悪意、放たれてはならない禍禍しい人間の意識が込められているオーブ、つまり魔石があるのです。過去に何人もの人々がオーブの影響を受け、この国を揺るがす大きな危機に陥れたそうです。しかし破壊するわけにもいかず、宮殿近くの塔を建て封印し、何人たりとも近付くことを禁じたのです」
男は夫婦の方を一瞥した。
「ですがあの子供は塔にかけられていた封印を解き、さらにオーブと接触していた。後々危険分子となるとみて間違いないでしょう。身内の不祥事は身内がなんとかしなければならない。長老の決定は当然のことです」
「……」
キノは無言のまま夫婦を眺めた。
女性は肩を震わして泣きつづけ、男性も妻を支えているものの涙を流していた。
「長老」
女性が泣き腫らした顔を上げ声を絞り出し懇願した。
「せめて、今日だけは、今日一日だけでよいので猶予を下さい」
「理由を述べよ」
長老は静かに問うた。
「最後に、最後に、最後だけは……、あの子に……幸せな時間を過ごさせたいのです」
途切れ、途切れになりながら女性は言った。そしてまた嗚咽を漏らした。
男性は慰めの言葉か、女性に小声で語りかけた。女性は首を縦に振り、男性を見上げた。
男性は頷き、長老を仰ぎ見る。
しばしの間、黙考していた長老が口を開いた。
「猶予を認める。じゃが今日中に殺せ。これ以上の譲歩はせぬ」
「……。ありがとうございます」
女性は震えながらも慇懃に礼を言った。
長老は側近の一人に目配せをした。側近は頷き席を立ち、夫婦の方へと近付く。
「これをあなた方に渡しておきます」
男は透明な液体の入った、片手で包みこめるぐらいの小さな小瓶を差し出す。
女性の瞳が大きく見開く。
「これは……?」
男性が男に尋ねる。
「毒です。飲み物にでも混ぜて使うとよいでしょう。不測の事態のことも考えて多めに入れておきました。中身の半分ぐらいで致死量となります」
男は淡々と説明する。
夫婦は顔を歪ませる。
「楽に死なせてあげた方が良いでしょう?我々からの、せめてもの情けです」
男性は震える手で男か
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