第十五章
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があるのだ。
「大体解かったろう。あの女怪の正体が」
役は微笑んで言った。
「ええ、とても。道理で日本の妖怪には見えない筈ですよ」
本郷もその言葉に頷いて言った。
「さて、相手の正体が解かったらおのずと戦い方も決まってくる。今夜にでもやるぞ」
「ええ。向こうも出て来るでしょうしね」
二人は笑った。そしてマクガレイ大尉に本を全て返すと戦いの準備を始めた。
刀や短刀の刃を磨く。そしてそこに梵字を書く。
拳銃に銀の弾丸を装填しポケットにストックを入れる。そして懐には札を忍ばせる。二人の用意は整った。後は夜になるのを待つだけであった。
「消灯」
放送が入った。だがまだ多くの候補生達は自習を続けている。候補生学校は夜も忙しいのである。
その中本郷と役は隊舎から出た。そしてある場所へと向かう。
「お二人共、お菓子でもどうですか」
紫のジャージを着た伊藤二尉が部屋に入って来た。だが二人はもういなかった。
「そうか、捜査中か」
伊藤二尉はそう思いテーブルの上にその菓子を置いて部屋を去った。広島名物紅葉饅頭である。
黄金色の柔らかい光を発する満月の下二人は進んでいた。息は白く空の中に吐き出される。だが寒くはなかった。その気が全身を包んでいた。
気が張り詰める。それは四方八方に張られ辺りを支配していた。
教育参考館の前に来た。厳しいギリシア風の建物である。
ここには旧海軍からの歴史的資料が多くある。東郷平八郎や広瀬大佐、秋山真之等日露戦争において国難を救った誇り高き軍人達や山本五十六等二次大戦の提督やパイロット達の資料が多く集められている。意外な事に明治の文豪森鴎外の筆もある。彼は軍医としての地位も高かったのである。本名である森林太郎の名で収められている。
その中でも特攻隊の資料は心を打つ。その若い命をもって国を救わんと出撃し、そして散華していった若き侍達。彼等の純粋で哀しい志もここに伝えられている。その激しく、純粋な心を見て涙を落とす人は多い。
その多くの資料が収められている建物の前で二人は立っていた。口から吐き出された白い息が夜の冷たい空気の中に消えていく。
二人は遠くを見ていた。闇夜の中の、遥か彼方を。
遠くから影が来た。白い、妖気を漂わせた影だった。
影はあの女怪だった。二人のところへ空を漂うように動くことなくすうっと近付いて来る。
「暫くぶりね。元気そうで何よりだわ」
女怪は二人を見て言った。
「それはどうも」
役は女怪に対して言葉を返した。
「やけに嬉しそうだな」
「それはもう。法力の強い者の血はそれだけ美味しくて力になるのですもの」
笑った。妖艶であるが血の臭いのする笑みだった。
「ほお、そりゃあどうも。俺達はあんたの食事ってわけかい」
「ええ。とても美
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