第四十三話 一度はっきりさせようよ
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きたのは夕方六時を過ぎた頃だった。顔色は悪くない、歩行も特に異常は感じられなかった。
「もう起きて大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫だ。心配をかけて済まない」
「お腹が空いていませんか、食事は直ぐ出来ますけど」
「そうだな、一緒に食べようか」
牛肉のルラーデンに茹でたジャガイモの付け合せ、アジの甘酢漬け、カボチャのクリームスープ、それにパンはライ麦パンを用意した。飲み物は夫がジンジャーエール、私は赤ワイン。夫はカボチャのクリームスープが気に入ったらしい、美味しそうに飲んでいる。
夫は私を恨んでいないのだろうか。身体が動かなくなった時、如何思ったのだろう。目の前に居る夫は私の料理を美味しそうに食べている。そこからは私への不快感はまるで感じられない。本当に信じて良いのだろうか……。私が考えていると夫が話しかけてきた。
「吃驚したか?」
「ええ、歩けなくなるなんて思っていませんでしたから」
夫が首を横に振った。
「いや、そうじゃない。私がこの国の覇者になった事だ」
「……よく分かりません。驚いたような、驚いていない様な……」
「そうか……」
驚いたような気もするが何処かで当然と思った様な気もする。ただ、目の前の夫には昂りも無ければ喜びも無い。夫にとっては已むを得ない事だったのだろう、権力奪取は野心では無く義務だったのかもしれない。
「お前に言っておくことが有る」
「はい」
ラインハルトの事だろうか、そう思ったが違った。
「私はこの国の覇者になった。当然だが私を利用して私利私欲を得ようとする人間が居る。そういう人間はお前をも利用しようとするだろう。私はその手の不正を許すつもりは無い、注意してくれ」
「はい」
分かっている。先日、ヴェストパーレ男爵夫人とシャフハウゼン子爵夫人から聞いた。夫は二人に私を利用するなと言ったらしい、いかにも夫らしいと思う。虚栄心の強い女達にとって夫程詰まらない男性は居ないだろう。夫の愛人になりたいなどとは思わないに違いない。夫では虚栄心を満たすことは出来ないはずだ。
でも誠実で聡明な女性なら夫を愛するかもしれない。ただこの人に愛人というのも私には想像が出来ない。この人に女性を口説くとか出来るのだろうか……。無心にアジの甘酢漬けを食べている夫を見ているとあまりそういう事が得意だとも思えない。私には可笑しなくらい生真面目な男性にしか見えない夫なのだ。
「どうした、何か有るのか?」
気が付けば夫が不思議そうな表情をしていた。
「いえ、アジの甘酢漬けを美味しそうに食べていたので」
「うん、美味しいと思う。それが何か?」
「いえ、それだけです……」
夫は小首を傾げたが何も言わずにまたアジの甘酢漬けを食べだした。やはり愛人は無理だろう。
「あの、お聞きしたい事が
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