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港町の闇
第八章
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ぞ。過ぎたことを」
 彼にとっては人間とは糧でしかないのだ。だからこそこうした言葉を口にすることができた。そして彼にとってはそれがヨーロッパの者であってもそのヨーロッパから遠く離れた東洋の島国の者であっても同じことであった。彼にとっては等しく人間であり糧であるのだから。
「それで名前は何ていうんだ?」
 たまりかねた本郷が男に問うた。
「名乗るっていいながらもう大分時間が経っているぜ」
「ふん」
 男はそれを聞いて口の端を歪めた。
「そうだな。では名乗るとしよう」
「勝手にしな」
 本郷は悪態をつくように言った。
「聞いてやるぜ。早くしろよ」
「無粋だな。急かすとは」
「急かすも何もこっちは聞く方だ。早くしろ」
「まあよい。では名乗ろう」
 男はようやく名乗った。
「我が名はアルノルト=ホーツェプロツ」
 自らの名を言った。
「偉大なるユダの血を引く者だ」
「とどのつまりはそれか」
 本郷はユダのことを聞いてそう言った。
「所詮貴様はユダの子孫でしかねえわけだ」
「その偉大さがわからぬようだな」
「ああ、わからないさ」
 そう言葉を返した。
「血筋なんて何の意味もないことだからな。ましてや」
 そう言いながら懐から小刀を取り出す。
「吸血鬼なんかにはそんなもの一切関係ねえ!俺にとっちゃただの魔物だ!」
 そして小刀を放った。それは一直線にその男アルノルト=ホーツェプロツに向かっていった。
「ふむ」
 アルノルトは自らに向かって飛んで来るその小刀を見据えていた。
「経文を書いた小刀か。成程」
 そこには彼の見慣れぬ文字が書かれていた。梵字というものだ。
「どうやら我々にとって何かしらの効果のある文字らしいな。ならば」
 彼は冷静にその小刀を見ながらそう考えていた。
「こうすればよいまでのこと」
 左にスッと動いてかわした。小刀は後ろに落ちた。
「チッ、やはりかわしたか」
「私を侮ってもらっては困る」
 アルノルトは舌打ちする本郷に対してそう言った。
「この程度のものに当たると思ったか」
「だろうな。こんなので倒せるとは思っちゃいない」
 それは本郷にとっても予想通りであった。彼はまた小刀を取り出した。今度は数本であった。
「なら、これで・・・・・・」
 その小刀を持つ右手に力が篭る。
「どうだっ!」
 そして放った。数本の小刀が唸り声をあげアルノルトに襲い掛かった。
「ふむ」
 やはりアルノルトはその小刀を冷静に見ている。
「一本で駄目なら今度は数本か。芸のない」
「本当にそう思うか?」
 本郷はアルノルトのその言葉に対してニヤリと笑った。その時だった。
 小刀がそれぞれ独特の動きをはじめた。そしてアルノルトに襲い掛かってきた。
「なっ」
 そしてそれぞれ
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