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港町の闇
第七章
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とでもいうのか」
「そのような似非と一緒にされては困る」
「じゃあ何だ」
 彼はまた問うた。
「魔王の子孫だとでもいうのか」
「それも違う」
 吸血鬼は焦らすようにしてそう言った。
「私を見てわからないというのか」
「吸血鬼に知り合いはいなくてな。会った奴は皆倒してやった」
「ほう」
 彼はそれを聞き目を細めた。赤い光が細くなった。
「我が同胞をか」
「そうだ。魔物を倒して何が悪い」
「同胞を屠った輩を生かしておくわけにはいかぬな。例え劣った血筋であっても」
「また血筋を言うか。いい加減名乗ったらどうだ」
「それもそうだよな」
 警官達が二人のやりとりの陰でそう囁き合った。
「もったいぶらずにな」
「それでは名乗ろうか」
 吸血鬼はようやく名乗る気になった。
「我はユダの子孫だ」
「ユダ!?」
 皆それを聞いて声をあげた。
「ユダというとあれか」
「聖書に出て来るあの」
「如何にも」
 男はその言葉に得意そうに答えた。その手には先程まで血を吸われていた少女の骸がある。その肌にユダの子孫の赤く禍々しく伸びた爪が突き刺さっていた。
「我はあのイオカリステのユダの末裔なのだ」
 そしてそう名乗った。その目が誇らしげに光った。
 イオカリステのユダとはキリストの十三番目の弟子である。三十枚の銀貨でキリストを売ったことで知られている。キリストはそれを知っており最後の晩餐の時にパンを自身の身体、ワインを自身の血と思い飲み食いするように言った。これは教会の儀式にも残っている。
 そして彼は十字架に架けられた。聖書に名高いキリストの最期である。だがユダは師を売ったことを恥じ、後にその銀貨を捨て谷に身を投げて死んだ。キリスト教においては第一の悪人とされている。なおイスラムにおいてはキリストは死んではおらずこのユダが身代わりになったという説もある。
 そのユダは赤毛であったと伝えられる。そう、今そこにいる魔物もまた赤毛であった。スラブにおいて伝説がある。ユダの子孫は血を吸う魔物となったのだと。ユダは赤毛であった。そしてその血を引く者達も赤毛であると。
「この髪が何よりの証拠」
 彼は自身の赤毛をたなびかせてそう言った。見ればその髪は自然と長くなったり短くなったりしている。彼の意思によって自由に伸びたりできるようだ。異形の者の証であった。
「この赤い髪がな。これで私が誰だかわかっただろう」
「ああ」
 本郷はそれに答えた。
「そんな由緒正しい魔物だとは思わなかったぜ。魔物だとはな」
「皮肉か?」
 ユダの子孫はそれに応えた。
「私は魔物だ。だがそれの何処が悪い」
「人に危害を加える。それで充分だ」
 本郷は刀を構えながらそれに応える。
「それ以外に何か理由が必要か」
「ふふふ、そうだな」
 
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