暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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〜妖精郷と魔法の歌劇〜
長き夜
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てあった古い花々と交換した。
古い、といっても、萎れかけの物ではない。つい昨日生けたのではないかと思えるほどの新鮮味だ。
いや、実際そうなのだろう。この少女は、文字通りほぼ毎日この病室にあしげもなく通っているのだ。
花を交換する音がしばしの間、室内に響く。
それを蓮は目を瞑って、音楽を聴くかのように聞いていた。
もうほとんど見えなくなっている視界の中で、花の交換を終えた人影がこちらに視線を向け、歩み寄ってきた。と思ったら、頬に暖かい感触を感じた。
温度なんか、触感なんか、もう感じられないはずなのに、なぜかそれだけは確かな感覚として蓮の脳の中枢を刺激し、魂を揺さぶった。
ああ、という呻きとも声ともつかぬ空気の震えが発せられる。
ヒトの温度だ。
体温だ。
心臓が紡ぎ出す確かで力強い
拍動
(
ビート
)
。それが血管を通る時に振動する音が、温度が、感触が、木綿季の手を通して全て伝わってくる。
生命力に溢れ、迸るほどのエネルギーが。
「…………アパートの皆は……、どうしてる?」
うん、と木綿季は言う。
「元気だよ。それに、寂しがってる。やっぱあそこは、人が一人でも欠けたらダメなのかな」
ジグソーパズルみたいにね、と木綿季は言う。
言いたいことは山ほどあるだろうに、それら全てをバレバレの笑顔で押し固める。今にも崩れ、壊れてしまいそうな笑顔で。
目が見えなくて良かった。そんな顔を見たら、こっちが負けてしまいそうになることだろう。いや、恐らく負けてしまうだろう。
自分自身に。
死期が迫るという、その現実に。
「るり子さんね。いっつも蓮のごはん作っちゃうんだって。作った後に、やっと余計だって気づくんだけど」
「はは、るり子さんらしいね」
「住職さんは……、毎日お経唱えてる。いつでも来いってさ」
「冗談に聞こえないよ」
「…………………………………」
「…………………………………」
そこで、会話が途切れて沈黙が室内を支配した。だが、頬に当たる暖かさは欠片も衰えていない。
触れられて、ふれられている。
人の温かさがここまで心地が良いものだと、蓮は忘れていたのかもしれない。たった二ヶ月、それだけの期間なのに人のぬくもりを忘れかけていた。
ぼす、と唐突に胸の上に衝撃を感じる。
頬に感じていたぬくもりが離れ、胸の上に新たに出現した。たぶん、胸に頭を乗っけられたのだと思う。
「……蓮」
くぐもった声が、その予想が当たったことを知らせてくれる。
「なに?」
「もう………ダメ?」
主語がないその意味を、蓮はすぐに気付く。
皮肉なくらい、すぐに。
「………そうだね。もう、無理みたい
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