第一物語・後半-日来独立編-
第五十二章 その場所へ想い走らせたならば《3》
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しかし、今、実之芽の行動を妨げている最大の原因はセーラン自身を認めていないところにあるのかもしれない。
最後の約束など、奏鳴が真の意味で救い出されれば自然と消滅する。
だが、消滅するためには奏鳴の心が救われなければならず、心の傷を実之芽は日来の長であるセーランでは癒せないと思っているのだ。
なんの根拠も無いが、自分でも癒せなかったのだからと決め付けている。
その決め付けが、拒絶の最大の理由だった。
「だけどな、お前に用は無くても委伊達・奏鳴には用はあるんだ」
「行ってどうするの」
「告るに決まってんだろ」
「成功すると思っているの? 馬鹿みたいだわ。そこまでして、一体何になるっていうのよ」
「知らねえよ、んなもん」
「失敗するに決まってるわ。もう手を引きなさいよ……。そうすればまだ、日来にはマシな未来が待ってるわ」
「気にすんなって、これが最後の告白だ。成功しても、失敗しても。もうこれが最後の告白になる。だから悔いの残らねえようにしてえんだわ」
流魔操作によって創り出した棒を地面に突き立てるセーランは、語り掛けるように言う。
理解出来無くてもいい。だが、他人を理解することを拒むことは他人との距離を更に引き離す。
そんななかで生きていて、セーラン自身は楽しいとは感じない。
だから他人を理解しようとするし、馬鹿をやって距離を縮めようとする。
苦労もせずに生きてきたわけではない。
今回もまた、苦労して何かを掴むのだ。
面倒なのは嫌だが、昔のように逃げていても始まらない。
「もしよかったら、お前も来ないか。本当は救いに行きたいんだろ。無理すんなって。他にもやる奴いるんだからよ」
手の差し伸べた。
片手を出して、もう片方の手は無くて。
本来腕を通す筈の袖は、弱い風に揺れていた。
差し伸べられた手は実之芽の方を向いているが、当の実之芽はその手には触れなかった。
認めない。
彼が奏鳴を救い出せるなんて、そんなの認めないわ。どんなに私が苦労してきたと思ってるの。それなのに、たった一日会っただけの人に奏鳴が救われるなんて、冗談じゃない……。だったら私の今までの苦労はなんだったのよ。
無駄だったなどとは言わせない。
必死になって救う方法を考え、実行し、打ち破られた悔しさ。
日来の長に救われてしまったのならば、今までの自分は何をしてきたというのだろうか。
存在そのものを否定される気がして嫌だった。
だから差し伸べられた手を叩き、払う形で拒否した。
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