第一物語・後半-日来独立編-
第五十二章 その場所へ想い走らせたならば《3》
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そうな火のようだった。
尽くす側として全てを尽くして、見返りを求めることもなくずっと尽くしてきた。
家系のことにも苦しんで、弱い自分を見せたくなかったから誰も頼らなかった。
彼女のプライドゆえの結果だ。
だが、火が消えるその前に、
「――っ!?」
崩れ落ちた身を無理矢理起こされて、頬を拳で殴られた。
痛かった。
本気の打撃だった。
数秒間、疑問だけが思考を支配した。
「え」
の一言だけしか、口から出なかった。
痛みの後から言葉が来た。
「お前がいたことで両親はどれ程嬉しかったか理解して言ってるのか! そりゃあ、家族でも理解されないことぐらいあるだろうけどさ、お前が産まれた時は両親めちゃくちゃ嬉しかったに決まってんだ!」
「な、何を……」
「産まれなかった方がいいなんて、そんな悲しいこと言うなよ。俺は生まれてよかったよ。苦しいことも悲しいこともあったけど、それでもよかったよ。俺にはまだ仲間がいたからさ」
ならば、
「お前だっているだろ、仲間! 産まれてこなかったらその仲間にだって会えなかったんだぞ。あいつにも、会えなかったんだぞ……」
殴られた右頬に触れ、混乱のなかで実之芽は聞いた。
自分に向けられた言葉を。
「産まれなければよかった、死んだ方がマシだとか。命を軽視し過ぎるなよ……。今すぐ自分で自分の命捨てられる程、命ってのは軽く出来ちゃいない」
「うるさい……」
抗いとして、口から出た言葉。
痛みからなのか、頬に涙が流れた。
繋げていた糸が切れたような。急に涙が溢れ出て、情けない。
「関係無いでしょ。なんで貴方は、色々と口出ししてくるのよ。いいじゃない、他人事なんだから」
「他人事でも突っ掛かることぐらいあるさ。それがあるから他人を今まで以上に理解出来るし、分からなかったことも分かるようになる。
突っ掛かんなかったら他人は他人のままだ。よく言えば理解することなんだ。突っ掛かりも理解するための手段なんだよ」
「そんなの、いらないわ」
「ならお前は理解されなくてもいいってことなんだな。別に構わないけどさ、俺はお前に用は無いわけなんだし」
眼中に無いと言うことか。
く、と実之芽は悔しさを感じた。
日来の長を見ているだけで、心の奥底から怒りに似たものが込み上げる。
彼女自身がセーランを拒絶しているだけなのかもしれないが、ならば何故セーランを拒絶していいるのか。
宇天の長を救出しに来た彼に手も出さずに行かせれば、勝手に宇天の長は救出される。
委伊達・奏鳴の死が嫌なのならば、むしろ今の彼女の行動はおかしい。
止めることが出来無かったと言い張れば済む話しであり、例え誰かが見ていたとしても、セーランと口裏を合わせれば自分が負けたように見せるのは簡単な筈だ。
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