第一物語・後半-日来独立編-
第五十二章 その場所へ想い走らせたならば《3》
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たって、胸を張って言えるのかよ」
「私は……」
「どうなんだ。もう一度、自分に聞いてみろって」
こんなことで心が揺らいでどうする。
決めた筈だ。奏鳴を守り抜くと。
ここで揺らいだら、約束は果たせない。
自分は既に決めた筈だ。
「宇天長の側にいたお前が今取るべき行動は何か」
取るべき行動。
それは日来の長を解放場へ向かわせないこと。だから今自分は、彼の前に立ち塞がっている。
いい筈だ、これで。間違って無い筈だ。
「ここでお前は何をしているんだ。俺を止めて、何を果たす?」
約束を果たすのだ。
奏鳴との、最後の約束を。
苦しみから解き放ち、奏鳴がこれから得る筈だった幸せを得て、語り笑う。
約束した筈だ。
「お前はあいつを“見殺し”にするのか」
「見、殺し……? 違う。私は、私は守ると……守る? でも、それは奏鳴様を結果的に殺す。……あれ? 守ったら、死んじゃうの?」
駄目だ、考えたら。
これ以上、精神を傷付けるのはよくない。
考えるな。
糸が巻き付くように、実之芽の思考は混乱し始めた。
考えては駄目だと言い聞かせているが、思考は命令を無視し考えさせる。
現実に目を向けさせるかのように。
「なら助けに行く? そしたら約束は、奏鳴様の意思が……。助け出せたとして、苦しみを与え続けるの……? 駄目、そんなのは。なら解放させ……嫌! 死なせたくない! 生きてもらいたい。ずっと笑っていてほしい……」
崩れ落ちる実之芽。
冷たいコンクリートの地面に、彼女は落ちた。
約束を守るためには奏鳴を殺さなければならない。だが奏鳴は殺したくない。
彼女の意思と、自分の意思。
全く逆の結果を生む意思を二つ持つ彼女のなかで、混乱が起こった。
実之芽がこんなにも悩む理由は、草野芽家、つまり彼女の家系にあった。
草野芽家は代々、委伊達家を護る護衛を担当する家系だ。
だから実之芽は幼い頃から委伊達家を第一に考えるようにと、そう教育されたきた。
真面目な彼女は真っ直ぐ、教育されたことを忠実に守ってきた。
『私は……遣える者なんだ……』
奏鳴を護るようにと遣わせれた中等部二年生の頃から、ずっと奏鳴の側にいた。
家族を殺してしまい、誰であろうと拒絶した彼女の側に、黙って側に居続けた。
黙って彼女の、誰にもぶつけることの出来ぬ怒りを、この身一つで受け止めた。
『どうしてなの! どうして、こんな力が! こんな力さえ無かったら――!』
口調がまだ女らしかったあの頃の奏鳴。
怒りを受け止め、泣き崩れた奏鳴を優しく抱いた。あの時ただ、それだしか出来無かったから。
その頃からか、実之芽は奏鳴を委伊達家の者として、自分の大切な者として見るようになったのは。
彼女には自分
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