第五十四話 富の為にその五
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「相席していいかい?」
「好きにすればいい」
広瀬は食べながら素っ気無く返した。
「君の好きな様にな」
「つれないねえ。知り合いだっていうのにな」
「知り合いといっても色々だ」
広瀬の言葉はここでも素っ気無い。
「中には敵もある」
「剣士同士の関係はっていうんだな」
「そうだ、俺と君は敵同士だな」
「ああ、そうさ」
このことは広瀬もあっさりと認める。
「俺も生き残るつもりだからな」
「ならだ」
それならというのだ。
「俺と君は知り合いだが」
「敵同士だっていうんだな」
「俺は何時か君を倒す」
中田のその目を見据えてこう告げた。
「君が誰にも倒されない場合はな」
「俺もだよ。あんたに恨みはないがな」
「それでもだな」
「あんたが戦いから降りるか他の奴に倒される以外の場合はな」
「俺を倒すな」
「そうするよ。その時はな」
「そういう関係だ。しかしだ」
「今は、だよな」
「俺は君と闘わない」
剣士同士だがそれでもだというのだ。
「食事中だ。お互いに静かにいきたいが」
「俺もだよ。今はな」
中田も笑ってこう答える。
「それでなんだよ」
「そうか、わかった」
「それに話したいこともあるしな」
「剣士のことか」
広瀬はすぐに察した。
「そのことだな」
「わかるんだな」
「俺と君の接点はそれしかないからな」
剣士、即ち殺し合う関係である。
「だからだ」
「そういうことさ、じゃあ食いながら話をするか」
「匂うがいいか」
広瀬は笑顔のままの中田にこう前置きしてきた。
「それでもいいか」
「匂い?」
「俺が今食べているのはジンギスカン定食だ」
「ああ、マトンか」
「その匂いがするがいいか」
「別にいいさ。マトンは好きだからな」
中田は笑って広瀬にこう返した。
「だからな」
「だといいがな」
「羊の匂いってのはいいと思うがね」
「食欲をそそるというんだな」
「俺的にはな」
彼にとってはそうした匂いだった。
「そうなんだがな」
「だがそうじゃない人も多い」
「日本人はまだ羊になじんでないからな」
「だからだ。どうしてもだ」
「匂いのことは言ったんだな」
「抵抗がないならいい」
広瀬としてもそうだというのだ。
「なら話をしながら食おう」
「そう言うことで宜しくな」
中田は屈託のない笑顔で広瀬に応えた、そのうえで彼の向かい側の席に座った。彼のメニューはというと。
「レバニラ定食か」
「レバーは身体にいいからな」
だからこれだというのだ。
「それでだよ」
「確かにな。レバーは身体にいい」
「しかも御飯にも合うだろ」
御飯は丼に山盛りである。味噌汁やサラダも見える。
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