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港町の闇
第二十三章
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あった。人は人の世界にいる。魔物は魔界だ。だからこそ魔物であり魔界であるのだ。
「しかしこの世界で人を害するのだけは許せん。覚悟はできているな」
「先にも言った筈だ」
 アルノルトは悠然と返した。
「私は覚悟という言葉を知らないとな」
「勉強する気がないのなら別にいいさ」
 今度は本郷が言った。
「どのみちここで始末してやるからよ」
「では来るがいい」
 彼は部屋の中央にやって来た。
「私自らの手で始末してくれるわ」
「言われなくてもな」
「参る」
 本郷と役が動いた。神父も。こうして最後の戦いがはじまった。
「天におわす我等が神よ」
 神父が懐からあの十字架を取り出した。
「邪悪なる者を滅し給え!」
 そして十字架を複数投げた。それは激しく回転しながらアルノルトに向かう。
「愚かな」
 だがアルノルトはそれを避けようとしない。
「神になぞ誓って何になるというのだ。愚かな神に」
 避けようともしなかった。身体でその十字架を受け止めた。
「何っ!」
 彼は傷一つ負ってはいなかった。十字架は彼の身体にあたるとそのまま溶けた。そして床に落ち銀色の水溜まりとなりそのまま消え失せた。
「まさか銀を」
「面白い見世物だな」
 アルノルトの返答はそれであった。彼は右腕を下から上に一閃させた。
「これはその謝礼だ。とっておけ」 
 爪が飛ばされた。赤い五条の槍が神父に襲い掛かる。
「ムッ!」
 神父は左に転がりそれをかわした。床に五本の禍々しい槍が突き刺さった。
「無粋なだ。私の謝礼を受け取らぬとは」
「魔物から謝礼を受け取るいわれはない」
 神父は言い返した。
「ただ滅するのみ」
「残念なことだ」
 彼は一言そう言った。そしてその右手に再び爪を生やす。戦いに備えてだ。
「銀が効かぬというのなら」
 役は式神を出した。赤い紙である。
「これでどうだっ」
 赤い紙は役の手を離れると鷲となった。紅蓮に燃え盛る鷲であった。
 鷲がアルノルトを急襲する。だが彼はそれを見てもやはり身動き一つしなかった。
「小さいな」
 彼は鷲を見てそう言った。
「まるで小鳥だ」
「その小鳥を防げるか」
 役は言い返した。
「炎に包まれて滅びてしまえ」
「この程度の炎では」
 アルノルトは一歩前に出た。
「私を焼くどころか照らすこともできはしない」
 そして鷲を握り潰した。炎はその中で消えてしまった。
「式神まで破るか」
「所詮は紙だ」
 アルノルトは消し去った火の跡を見下ろしながら言った。
「紙に私は倒せはしない」
「じゃあこれはどうだ!?」
 本郷が動いた。何かを投げた。
「これなら手前もくたばるだろう」
 それは銀貨だった。神父から貰ったユダの銀貨であった。アルノルトが最も怖れる
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