第二十一章
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「何処となくビクトリア風ですね」
「そこまではわかりませんが」
巡査はそれには苦笑で応えた。
「そうしたことには詳しくはないので」
「確かにあれはそうですね」
だが神父が代わりにそう答えた。
「アメリカのそれではないですね」
「はい」
役がそれを聞いて応えた。
「ですね。あれはアメリカのものではありません」
「そうなんですか」
本郷にはそれは全くよくわからなかった。
「俺にはちょっとわかりませんけれど」
「ならいいさ。問題はあの中だ」
役はそれにはそう答えた。
「わかるだろう、あの中には」
「はい」
本郷は先程とはうってかわって真剣な顔になった。
「いますね、あの中に」
「ああ。銀貨は持っているな」
「勿論」
彼はニヤリと笑いそれに頷いた。
「ポケットの中にね。ちゃんとありますよ」
「そうか。ならいい」
役はそれを聞いて安心したような声を出した。
「では頼むぞ。早速中に入ろう」
「はい」
門の前に来た。鉄の門でありそれは固く閉じられていた。誰かがその門を見て呟いた。
「地獄への門、かな」
「それは違いますね」
役がすぐにそれに反論した。
「勝利の女神が待っている門かな、それじゃ」
本郷がそれに対してそう悪ふざけとも捉えられる言葉を口にした。
「そうなるかならないかはこれから決まる」
役のそれに対する言葉はそれであった。
「これからですか」
「ああ」
「じゃあ決めましょう」
神父がそれに応えた。
「神の祝福の門にね」
神父らしい言葉であった。それに異論を挟む者はいなかった。
「じゃあ行きますか」
「はい」
扉を開けた。左右に一人ずつ警官がつきそれを開ける。錆付いた鉄の音が夜の世界に響いた。
そして中に入る。左右対称の庭がそこにあった。そこには多くの花が咲いていた。紫の美しい花だ。だが役はそれを見て顔を顰めさせた。
「ジギタリスか」
「キツネノテブクロですか」
「はい」
彼は答えた。これは毒草でもあるのだ。
「まるで我々に毒を盛りたいようだな」
「少なくとも命は奪うつもりでしょうね」
本郷が言った。
「自分の領域を汚す者は。何人たりとも許さない」
「だろうな」
役もそう見ていた。
「これはその意思表示か。何とも嫌らしい意思表示だな」
「だからこそ魔物なんでしょう。嫌われ者の」
このジギタリスは意地悪な妖精が姿を変えられたものであるという伝説がアイルランドにあるのだ。その妖精は花になっても他の者に意地悪をしているというわけである。それを考えると実に陰険な庭であった。
「こんなものに構っている暇はない」
役は吐き捨てるようにしてそう言った。そして足を前に進めこう言った。
「行きましょう。こんなところに長い間
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