第二十一章
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ない。
「よかった」
現に彼等はホッと胸を撫で下ろしていた。
「まさかと思いましたから」
「ははは、それはないですよ」
役はそれを聞いて笑った。
「それは私が一番わかっているつもりなので」
「ですよね」
「それを聞いて安心しましたよ」
警官達は口々にそう言った。こうしてアルノルトの捜索及び使い魔への対処は彼に一任されることになった。それから数日が経った。
動きがあった。役が戻ってきた式神の一つから話を受け取ったのだ。
「そこか」
式神は答えない。話は彼にしかわからない。だがそれで充分であった。
「あの男の居場所がわかりましたよ」
彼は他の者に対してそう言った。それを聞いた本郷も神父も警官達もそれに反応した。
「遂にですか」
「はい」
彼は答えた。
「須磨です」
「須磨」
何人かがそれを聞いてすぐに反応した。須磨は神戸では文学的に有名な場所の一つである。源氏物語において光源氏が左遷され暫くの間そこにいた。今は公園や水族館等で有名な場所である。海に縁が深いことで知られている。
「そこに一つ古い洋館がありますね」
「ええ」
大森巡査がそれに頷いた。
「海沿いにね。あそこですか」
「はい」
二人はそれが何処にあるのかわかっているようである。互いに頷き合った。
「あそこなら確かにいてもおかしくはありませんね」
「はい。どうやらそこにいるようです。どうしますか」
「決まっていますよ」
署長がそれに答えた。
「行きましょう、すぐに」
彼はそう言って席を立った。
「当然君達もな」
「はい」
警官達は上司の声に頷き一斉に席を立った。
「わかっておりますよ」
「うん」
署長は固い顔でそれを聞いて応えた。どうやら彼は部下には人望があるようであった。本郷も役も今の彼の態度を見てそれも当然だと思った。自ら率先して動く上司には人はついてくるものである。
「では行きますか」
「はい」
本郷達もそれに頷いた。当然神父も席を立っていた。そして彼等は皆部屋を出た。行く先はもう決まっていた。
須磨区。その時はもう夜になっていた。雨が降る夜だった。
雨は何故か鉄錆の匂いがしていた。それは滴り落ちる血の匂いであった。彼等はその雨の中を進んでいた。
「あそこですね」
「はい」
役は大森巡査が指差した古ぼけた洋館に目をやり頷いた。そこにあの男がいるのだ。
見れば今にも崩れ落ちそうな洋館であった。大きいことは大きいが蔦が壁を覆いその壁もヒビが入り割れそうであった。廃墟と言っても差し支えなかった。
「あれは明治の頃に建てられたものでして」
巡査は語りはじめた。
「ここに滞在したイギリス人が建てたものです。そうした感じでしょう」
「確かに」
役はそれに同意した。
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