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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
役者は踊る
第四九幕 「零の領域」
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あれは何時だったかおぼろげにしか思い出せないとある日。俺は箒の父親である柳韻(りゅういん)さんに稽古をつけられた。それまで中々同門である箒と腕の差が埋められなかったから鍛えてくれと頼み込んだのだったと思う。だが、当時まだ幼かった俺はそれを後悔した。

柳韻さんから発せられてた濃密な殺気と容赦のない竹刀の攻撃を全面に浴びせられた。子供だからと言って一切手心は加えないと言わんばかりの本気の剣鬼。普段道場で見せる柳韻さんと明らかに違う気迫に、俺は人生で初めて本気で人間に怯えた。そしてそんな中、それでも消えなかった「強くなりたい」という思いを捨てきれずに猛攻を掻い潜ろうと何度も立ち向かい、息も絶え絶えで体が限界を迎えようとした――そんな時、俺は”至った”。
それは非力な子供の弱弱しい一撃であるはずだった一突。それが柳韻さんの胴を打ち抜いた。

稽古はそこで終わった。後で知ったことだが、元々俺は剣の才能があったそうだ。ただ、それだけに才能に溺れて邪道に逸れてしまわないかという小さな不安が柳韻さんにはあったらしい。だからこそあの稽古は剣を振るうことの本当の恐ろしさを伝える意味合いで行ったらしい。その追い込みが、土壇場に強い一夏の成長を急激に促してしまったのだろうと説明された。
その時、偶然に近い形で俺が使った奥義こそが、篠ノ之流を学ぶものでもその殆どが一生至れずに終わるという領域。神速、明鏡止水、畢竟(ひっきょう)などと呼ばれる世界。

  ――篠ノ之流古武術裏奥義 『零拍子』 ――

それは言葉にすれば、ただ相手よりも早く行動し、敵を一刀のもとに斬り伏せる。それだけの奥義。嘗て一夏が一度は至り、そして遠のき、再び踏み入れた奥義。
相手より「速く」ではなく「早く」。相手の時間の感覚、言い換えれば相手の思考そのものよりも更に”一拍子早く”、相手の感覚を超越した領域に斬り込む。それは武術としての完成にて究極系。未だ未熟ゆえにこの領域にはいれるのはほんの一瞬だが、切り捨てるのに必要な時間も一瞬である。

幼いことの箒と一夏の腕の決着は、一夏が零拍子を習得した頃に一夏の勝ちで片付いた。
箒は一夏よりさらに前から篠ノ之流を学んでいたにも拘らず、そこまでは至れなかったからだ。それが二人の決定的な差となった。



だからだろう。一夏は心の何処かでこう思っていたのだ。「零拍子」に至れば自分の勝ちだと。
それが大きな間違いであることに気付かずに。



がきぃぃぃぃん!!

「なっ・・・?」

白式の握る雪片弐式に今までにない力がぶつかった。腕が飛ぶのではないかと錯覚するほどの運動エネルギーを打ち消しきれず、腕ごと刀が上に弾かれた。

「誠天晴れな戦い様だったぞ・・・だが、今回は私の方が1枚上手だったようだな」

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